5591人が本棚に入れています
本棚に追加
「八咫刀の刀身の色は、葵さんの本来の髪色に瓜二つだ。これは果たして偶然なのだろうか。
この刀と葵さんの出逢いは必然だった……。
そんな気がしてならないんだ」
先程まで葵は妖刀ともいえる八咫刀を選んだ事で、沖田が己を嫌いになっただろうかと不安で仕方が無かった。
それ故、"私は変人だと思う?" と問うたのだが──。
「そ、そうね……ええ、確かにそうね。
私もそんな気がするわ。
(お、お、沖田君が私の髪を触った……。
僅かだけど指が頬に当たったっ!)」
その不安は沖田の予想外の行動により吹き飛ばされ、今や葵の心中は完全に羞恥心で支配されていた。
これまで "姫" という立場から他人と直に触れる機会が少なかった葵。髪に触れる事など、側近の秀臣ですら滅多にしなかったのだ。
そんな葵の気など知らない沖田は未だに平然と笑みを浮かべていた。
「だから八咫刀を選んで正解だったと思う」
そう言って沖田は足の動きを再開させる。
しかし顔を真っ赤に染めた葵は、ポカンとしたまま足を動かす事ができなかった。
「葵さん、早く! もうすぐ日没だ!」
5間程離れた所から沖田が手を振りながら叫ぶ。
葵は暫くの間その場に佇み、遠くに居る沖田の姿をただ呆然と見つめていた。
-----
*5間……約9m。
最初のコメントを投稿しよう!