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眩い朝日が射し込む部屋の中で、葵はまだ重たい瞼を徐に開けた。
普段より半刻(1時間)しか長く眠っていないというのに随分と長い時間眠っていた感覚があり、体全体が心地よく痺れている。
それでも気怠げに布団から上半身を起こし、部屋をキョロキョロと見回した。
「(夢で "あの男" の声を聞いた気がするわ。
何て言っていたのかは覚えていないけれど)」
"あの男" 。
それは昨日聞こえた謎の声の主である。
その男が葵の夢に介入してきたというのだ。
否、"夢に介入する" という行為はあまりにも非現実的である。
その為葵は "あの男" が部屋に侵入した痕跡を探ろうとしたのだが────。
「おはよう、葵さん」
「…………おはよう」
既に沖田と斎藤も目覚めていたようで、布団からにこやかに挨拶をした。
葵と同じ様にこの部屋で寝泊まりしている2人。
気配に非常に敏感なこの2人ならば、侵入者が居るものなら即座に目を覚ますだろう。
「(誰かがこの部屋に侵入したという事は有り得ないわね。私の思い込みに違いないわ)
沖田君、斎藤さん、おはよう」
1度眠りの世界へ意識を沈めた事で沖田に対する羞恥心はいつの間にか薄れ、いつも通りに対面して会話を行うことができた。
葵は2人に余計な心配を掛けさせまいと "あの男" の事は口に出さず、2人と共に井戸へと向かい、そのまま朝餉を口にした。
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