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この日、朝餉を済ませた葵と沖田は屯所のすぐ側にある壬生寺の境内で素振りを行った。
木刀が振り下ろされる度に勢い良く空気を斬る音が辺りに響き渡る。
生粋の剣術馬鹿である沖田と葵は既に1刻(2時間)程木刀を握り続けており、額には汗が滲んでいた。
「葵さん、一休みしようか」
ここで漸く沖田が手を止めて木陰へと移動する。
葵も沖田に応じて木刀を握っている腕を下ろすと、彼の隣に腰掛けた。
すると沖田は手拭いで汗を拭きながら、木刀を手にしている葵を見て笑いを漏らす。
「葵さんは本当に凄いな。女子なのに実戦を想定して真剣と同じ重さに作られている木刀を、意図も容易く振り下ろせるなんて」
その言葉を聞いた葵は、頬を焼き餅の様に膨らませて沖田を睨んだ。
「沖田君?
試衛館に居た時も言ったけれど私は武士の魂を兼ね添えている────。
いや、今はれっきとした武士なのよ。
女子扱いは止めて」
そう言ってそっぽを向くと、沖田は慌てて詫びの言葉を入れる。
「ご、ごめん葵さん。
所で俺、昨日も何か葵さんの気に触る事をしてしまったか? 屯所に帰ってから、ちっともこっちを向いてくれなかったから……」
「〜〜ッ!!」
沖田のその言葉に葵は昨日、己の頬を掠った彼の指の熱を思い出す。
「そ、その、き、昨日は……」
葵が返答に困っていたその時────。
「総司、葵ーー! 近藤さんが呼んでるぞ!」
壬生寺の境内に、藤堂が走ってやって来た。
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*真剣と同じ重さに作られている木刀……約1.5kg。天然理心流はこの重さの木刀で素振りを行っていた。
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