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パン、パンッ!
軽快なその音は、沖田の掛け声の直後に境内に響き渡った。
「勝負あり! 勝者、河合葵!」
「「えっ……」」
蔵之助と愛次郎は何が起きたのか理解できなかった。 竹刀で胴を叩かれた感覚だけが身体に刻まれている。
蔵之助が狼狽え、目線をチラリと横にすると──そこには振りかざした竹刀を元の平正眼の構えへと戻す葵の姿があった。
「(この女、あの一瞬で俺達の間合いに入り胴を打ったというのか!
気配すら感じられなかった。
この速さ……最早人間の成す技ではない)」
漸く己の身に起きた事を理解した蔵之助は、葵の実力に戦慄する。
そして愛次郎の震える手からは竹刀がカラン、と滑り落ちた。
見学の川島も、ただその場に立ち尽くしている。
愕然としている3人に葵は冷たい眼差しを向けた。
「おかしいわね。
私は貴方達の稽古相手にならない程弱い筈だけど。これじゃあ、私と貴方達の立場が逆ね」
その言葉に3人は返す言葉が見当たらない。
彼らは暫くの間その場から動く事ができずにいたが、やがて愛次郎が葵に歩み寄って来た。
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