11. 集う同士達 ─無自覚の恋─

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試合の後──。 蔵之助と川島は屯所(前川邸)へ戻り、沖田と葵は八木邸に部屋が与えられた愛次郎をそこに送り届けた。 「愛次郎君の部屋に長居し過ぎてしまったわね」 「そうだな。そろそろ前川邸へ戻らないと」 沖田と葵が前川邸へ戻ろうとすると、八木邸の門前に2人の男児がしゃがみ込んで会話をしていた。 「"忍ぶれど 色に出でにけり わが恋は 物や思ふと 人の問ふまで" 。 次は何やっけ、為兄?」 「ええと……ちょい待て、勇之助。 ええっと……」 どうやら2人は兄弟のようだ。 "為兄" と呼ばれた兄は弟の質問の答えを必死に思い出そうとしているが、なかなか思い出せず腕を組んで考え込んでいる。 「あ、そうだ、葵さ……」 「"恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひそめしか"。 41番歌は壬生忠見(*みぶのただみ)よ。 所で何故 八木邸(ここに)? ここは壬生浪士組の屯所よ。 君達みたいな(わっぱ)が近くに居たら危ないわ。 早く八木邸(ここ)から離れてね」 葵は気がつけば沖田の言葉を遮り、思わず兄弟の会話に口を挟んでいた。 芹沢がこの光景を目にし、屯所前に屯っている兄弟に対して憤慨する事を恐れたからだ。 葵の言葉に兄弟は目を丸くした。 ----- *壬生忠見(みぶのただみ)…… 平安中期の歌人。生歿年不詳。 当ページの和歌は百人一首・41番歌。 勇之助の台詞の和歌は百人一首・40番歌。 平安時代中期の官吏、歌人である平兼盛(たいらのかねもり) (?~890)の作品。
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