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実はこの色は下級武士の着物の裏地の木綿に多く用いられ、「田舎者」・「野暮」・「貧乏」を象徴する色である。
その為、酒井雅楽頭家──超が付くほど上流階級の生まれである葵には受け入れ難い色であった。
また、この色は会津藩の身分制(紐・襟制)で最下層の色でもある。
よってここに居る誰もが身に付けたくない色に違いない。しかし、芹沢に向かって "着たくない" と言える猛者は居なかった。
隊士達が一言も発さないせいか、商人は焦って羽織を1枚手に取り広げて見せる。
「こ、この "段々" 羽織には、おたくはんの "志" が反映されてると思たんやけど……。
お気に召しまへんどしたか?」
「「「!!」」」
その瞬間────。
隊士達の視線は袖の部分に釘付けになった。
その部分だけは浅葱色ではなく、白地で山形模様が施されていたのだ。
羽織の全貌が明らかになった今、隊士達は皆同じものを脳内に思い描く。
「「「(仮名手本忠臣蔵……!)」」」
そんな中、芹沢は黙ったままの皆が何を考えているのか悟った様で、またしても1人口角を上げた。
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*紐・襟制…… 会津藩において、藩士を10数階層に分け、羽織の紐や半襟の色で階層が分かるよう区別する制度。
*山形模様……山形のギザギザ模様の事。
*仮名手本忠臣蔵…… 歌舞伎の演目の1つ。
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