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無事に小刀を手に入れた葵は、店を出て沖田と共に帰路に着いた。
夜の闇がすぐそこまで迫って来ている為、提灯を手にしていない2人は早歩きで屯所へと向かう。
「(店の中で聞こえた声は一体何だったんだろう。
聞き覚えのない男の人の声だった)」
歩きながら、ふと店で聞こえた謎の声の事を考えるも刀剣商と自分達しか居なかった店内を思い出し、首を左右に振る。
「(部屋の隅々まで見たじゃない。
誰も居なかった……つまり気の所為なのよ)」
そんな中、沖田の目線が己の腰……八咫刀に向いている事に気がついた。
「……ねえ、沖田君。
沖田君はこの刀を選んだ私を変人だと思う?」
歩く速度を緩めないまま問うと、沖田はすぐさま首を横に振る。
「いや、そうは思わない。葵さんは300年の間誰も抜刀できなかった刀を抜刀したんだ。
八咫刀は葵さんの為に作られたものじゃないかと思ってしまったよ。それに……」
沖田はそこで口を噤むと足を止めた。
「? 急がないと、完全に暗くなってしまうわ」
いくら急いでいると雖も沖田を置き去りにする訳にはいかない為、葵も足を止める。
すると沖田は突如葵に詰め寄り腕を伸ばし、彼女の結われていない横髪を一房掬いとった。
髪に触れている手をゆっくり広げると、その髪が重力に従い手の隙間から地に向かってはらりと落ちて行く。
その様子を見て沖田は優しく微笑んだ。
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