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 一週間後の土曜日、午後六時。一年ぶりに晴也の職場を訪れる。店内では可愛らしい鉢植えや花束が区画ごとに整理されていて、見ているだけで楽しい気分にさせてくれた。 「時間通りですね。丁度閉店作業も終わりました」 「晴也、本当に色々とありがとう」 「水くさいこと言うのやめてくださいよ。肝心の花の件なんですけど、これなんてどうでしょう」  晴也は並べられた花束から一つを選び取り、カウンターの上に置く。真っ白なマーガレットだ。 「祝福の意を示すために、結婚式で用いられることの多い花です。花言葉は、『真実の愛』『真実の友情』そして『誠実』です。どれもこれも相手方が持ち合わせていないものでしょう?」 「……晴也って、結構性格が悪いんだね」 「気付くのが一週間遅いですよ。それで、どうでしょう、先輩」  マーガレット。結婚式で使われる花。  晴也の皮肉たっぷりの説明を聞いていなければ、見ているだけで気が狂ってしまっていただろう。   「この花に申し訳ないな。もっと純粋な動機で贈られれば良かったのにね」 「相手に反省してほしいって思ってるんだから、純粋な動機ですよ。それに、どんな思いを載せられていたとしても、この花がマーガレットであることに変わりはありません。そのままの言葉を届けてくれれば良い」  マーガレットに暖かな視線を向ける晴也は、今まで見たこともないほど優しい表情をしていた。  そうだ、このマーガレットに疚しいところは一つもない。 「晴也。そのマーガレットを下さい」 「はい、お安い御用で。なんなら配送も承りますよ。梱包とか大変でしょう」 「……じゃあ、お願いします」  お代を払って必要事項を伝え、晴也が書き取っていくのを見守る。  この時点で、私の心は随分晴れ渡っていた。花が、私の憎しみを持っていってくれたかのように。
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