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百合音からメールが来たのは、晴也の職場に訪れてから二週間後のことだった。
一体何が書かれているのか想像もつかない。一人で読むのは不安で仕方なかったので、晴也に連絡を取り、自宅で一緒に中身を見てもらうことにした。
「寂しくなって一線を越えてしまった……美咲には申し訳ないと思っていたけれど、江島君に対する気持ちが大きくなってしまった……か。言い訳ばかりで見苦しいな」
「でも最後、見て」
美咲に仕返しされても文句は言えないのに、あんなに素敵な花をくれるとは思わなかった。でも、私みたいに卑怯な人間にはそぐわないよ。許してもらえるとは思っていないけれど、本当にごめんなさい。
晴也は眉間に皺を寄せていた。一方、私はかなり落ち着いた心持ちでいる。
「罪悪感を抱かせるのは成功したけど、こんなメール一つで済むならやったもん勝ちじゃないか。憎しみをぶつけたがっていた先輩の気持ちが、今なら分かります」
「もう良いよ。二人と関わっても自分のためにならないことは分かったから。ただ、許すのは無理だし、返事をする気にもなれない。いくら言葉を重ねても、起きたことは変えられないからね」
メールを削除して、溜まっていた息を吐き出す。
これで、この件はおしまいだ。あの二人と関わることもない。
「晴也、難しい顔しないで。もう大丈夫だから」
晴也はふて腐れた表情のままだった。私の黒い気持ちに感化されてしまったのだろう。申し訳ない。
「分かってます。これは先輩の復讐だから。先輩の気持ちが晴れるなら、それが一番良いんだ」
「晴也はあの二人とは赤の他人でしょ。復讐に入れ込まなくて良かったんだよ」
「それは無理です。俺、先輩のことがずっと好きだったから」
晴也が真っ直ぐに私を見つめている。真面目で力強い声が心に響いて、心臓が跳ねた。
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