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 江島君と付き合っていた間は幸せだったはずなのに、その記憶が全て意味のないものへと塗り替えられていく。「美咲の明るくて優しいところが好きだ」と言ってくれていた江島君は、最初から存在しなかったのだろうか。別れの時は耐えていられたはずの涙が、堰を切ったように流れ出す。冷えた胸の底から、どす黒い感情が溢れるのを止められない。  今まで彼と過ごした時間も、百合音達と過ごした時間も、全てが私を嘲笑っている。どうして、どうしてと問うことしかできない。どうしてこんなに酷いことをするの? 私があなたたちに何をしたって言うのよ!  携帯が鳴り響いた。大学時代の友人である、小原あざみからの電話だった。招待状のことだというのはすぐに分かった。今の私には、誰かからの言葉を受け取れるほどの余裕はない。電話を取らないでいると、留守電に切り替わって、あざみの肉声がスピーカー越しに聞こえてきた。 「美咲。電話できる状態になったら連絡して。あたしはあんたの味方だからね」  あざみの言葉を信じていいのかどうか、今の私には判別がつかなかった。ただ、誰かにこの悲しみを知ってほしい。何かに縋れるなら縋りたい。憎しみと不信が私自身を壊す前に、逃げ場が欲しかった。
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