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 数日後、晴也と都合がついたので、名古屋駅付近の和風パスタのお店で一緒に昼ご飯を食べることにした。私は明太鮭パスタ、晴也は半熟卵と柚子胡椒のパスタを選ぶ。和風出汁で茹でられたパスタは優しい味がして、体に染みわたるようだった。 「先輩、突然連絡してくるから驚きましたよ。わざわざお食事に誘ってくれたってことは、仕事の話じゃないんですよね?」  晴也は大学の頃から変わらない、人懐こい笑顔で話を切り出した。  色素の薄くて細い茶髪と白い肌、鈍色に光るピアスのせいで軽薄に見えるが、性格は真面目で商品の説明も上手い。人当たりも良くて気さくな性格で、そんな彼に憎しみに満ち溢れた計画を話すのは気が引けた。 「実はそうでもないの。花のことで相談があるんだ。でも、気分の良くない話だから」 「何かあったんですか?」 「探してほしい花があるの。相手を傷つけるような、不吉な花を」  晴也は目を見開いて固まった。それも一瞬のことで、彼はすぐさま真っ直ぐな目で私を見つめた。 「念のために聞きますけど、用途は?」 「贈答用。憎い相手に贈るの」 「……まさか、先輩の口からそんな言葉を聞くことになるとは」  晴也は深い溜息を吐いた。憎しみに塗れる私の姿を見て、失望したのかもしれない。  彼は大学の時から私を慕ってくれていた。「もっと早く先輩に会えていれば、人生がもっと良い方に変わってたのかもなあ」と事あるごとに言ってくれるものだから、ついつい構い倒してしまったものだ。そんな可愛い後輩に私の汚い内面を見せてしまうのは、本当なら避けたかった。  彼に復讐の片棒を担がせることに対して、葛藤がなかったわけではない。それでも、花のことなら晴也に頼んだ方が確実だ。私と江島君が過ごした八年間が無に還らないよう、あの憎い新郎新婦に刻み付けてやりたかった。
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