某気茶屋

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 テーブル席に着いたサラリーマン集団のもとへ、呆村が注文を取りに向かう。そしてお客様が注文を告げるたび、呆村がその日の気分である「呑気」を反映した率直な相槌の台詞を放つ。 「えーっと、とりあえずビール4つ」 「はい、なんとかなると思いま~す!」 「あと、枝豆と板わさね」 「はい、なんとかなると思いま~す!」 「あ、だし巻きともつ煮込みも」 「はい、なんとかなると思いま~す!」  まるで呆村本人は我関せず、誰かがなんとかしてくれるはずという、いかにも呑気な大学生らしい嘘のない相槌ではないだろうか。この日の呆村が業務時間内において発した台詞は、この「はい、なんとかなると思いま~す!」ただひとつのみであったが、まったく業務に支障はなかった。  呆村が接客したお客様たちにとって、この日の『某気茶屋』は、いわば『呑気茶屋』であったということになる。  次に30代パート主婦の鰯島が、OLの女子会テーブルへと接客に向かう。 「注文いいですか? あたしモスコミュール」 「はい、かもしれません……」 「え? それってつまり、ないってことですか?」 「はい、かもしれません……」 「じゃあ逆に言えば、あるかもしれないってこと?」 「はい、かもしれません……」 「それじゃあやっぱり、ないかもしれないってこと? いったいどっちよ!」 「はい、かもしれません……」
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