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鳥籠 -2-
うとうとと、心地よい暖かさの中でまどろむ。
かぎ慣れたコロンの匂い。
肩を抱きしめている腕の感触。
どれも、あたしの肌になじみ切ったもの。
それでも、はっきりしない。
あたしをこうして包み込んでいるこのオトコの名前。
誰だったっけな。
思いつく名前を端から並べてみたけれど、どれも当てはまらない気がする。
でも、顔を上げてしっかり見て確認するのも面倒くさい。
ここは、居心地がいい。
別にかまわない。
これが誰だって。
あたしが、すきなように振舞える場所だから。
首筋に顔をうずめて、匂いをかぐ。
犬みたいに、くんくんと。
かぎなれた匂い、と思ったけど、そうでもないような気もしてきた。
どっちにしたって知ってる匂い。
何でもいいや。
「朱? 起きた?」
聞いたことのある声だ。
「…少し」
声を出して答えてみると、我ながら寝ぼけてかすれた声。
彼の指が、あたしの髪をくしゃくしゃとなでる。
猫みたいに扱われるのは、割と好きだ。
「何時?」
「まだ9時。寝てなよ」
「うん…」
やっぱり、よく聞く声のような気もする。
でも、どこにでもいるような声。
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