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売れっ子
10年以上前、都内のK町という繁華街で火災があった。
雑居ビル3階から4階にかけて計四十人以上の方の死傷者を出した。
火災のあった4階のセクシーパブはその後、ヘルス店になった。
火災のことを知らないA子さんがそのヘルス店に勤めた。給料単価の低いA子さんは1店舗だけでなく、他の店にも数をこなすいわゆる箱ヘルだった。
体力勝負な仕事で身体に疲労が溜まっていた。
サービスが終わり、女の子たちは各サービスルームで寝泊まりしていた。
A子さんが店長から5番ルームに泊まるよう指示された。
寝る前にシャワー室で汗を流していたA子さん、頭を洗っていると、ふと電気が消えて真っ暗になった。
おそらく店長か誰かが、消し忘れたのかと思ってスイッチを押したのだろう。
まだ入ってますよー!
そう声をかけたが返事が無い。
もう一度大きく声をかけた。
頭の泡を流して暗いシャワー室の内鍵を開けようとした。
ふと足元を見ると、真っ赤な爪が見えた。
ギョッとして後ろに下がった。
蛋白質が焦げた匂いが充満していたのに気づいた。
雑居ビルの小窓から差し込む僅かな明かりの中にボロボロに焦げた女の人の姿が見えた。
目の前にいる!
思わず叫んだ。
その甲高い叫び声に店長がマスターキーで外から鍵を開けた。
最初、店長はA子さんの悲鳴に驚いたようで、シャワー室のドアを激しく叩き、A子さんの安否を確かめたのだが、そのドアの叩く音でシャワー室の中に閉じ込められているA子さんはさらにパニックを起こして内鍵を開けられなかったのだった。
中に入った店長は真っ裸のA子さんにバスタオルを渡して、何があったのかと問いただした。
しかしA子さんはしゃがみ込み、泣き叫ぶばかりで要領を得ない。
バスロープを着させて、ようやく落ち着いたA子さんから話を聞いた。
赤い爪が…手が…焦げた人が…女の人でした…
かつて同じ階にセクシーパブがあって、多数の死傷者を出したことを初めてA子さんは知った。
店長はスタッフたちにも女の子たちにも、その事実を知りながら話していなかった。
遅番の女の子たちをサービスルームに泊まらせた店長に責任があることは否めなかった。
懲りたA子さんは、その店を辞め、より単価の高いマットプレイで年齢層の高いお客様にサービスをして、指名がたくさん付き、大忙しで、嬉しい悲鳴を上げていた。
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