面影

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面影

今日も和輝は家に居ない。あれから数年が経って、俺達は高校受験を考える歳になった。和輝は中学から学校へ来る様になった、けれど授業にはついてこれず、中心だった和輝の代わりに居たのは俺。テストの順位は大体前側と後側、なんて事にもなり両親は和輝を叱った。部屋にも聞こえる程の声量で、何故、和哉はあんなに、なんて意味の無い言葉を投げ付けて。 「和輝、あんなの気にする事ないよ。」 「...御前は、そう言えて良いよな、全部の中心は御前だもんな?」 何も言えなかった。雰囲気がそう物語っていたから、其れは和輝にも伝わって周知の事実と化していたから。 漸く中学を卒業して環境を変える為、と神奈川へ引越して高校を選んだ。入学した学校の偏差値は天と地の差、ド田舎なら噂が素早く周り変に気を使われ、都会に行けば新入りという事で噂話に花が咲き、世間の目を気にした両親は更に和輝を叱責 「御前の為に俺は慣れた仕事を辞めてまた一から始めたんだ!なのに何故もっと頑張らない!」 「母さん達がどんな眼で見られてるかわかってるの..?お願いだから、高校くらいはちゃんと卒業して、」 和輝の頑張りを知らない癖に、なんて口を出してしまえば貴方は部屋にいなさい。なんて腕を引かれてしまう。 「和輝..」 「御前も思ってるんだろ、馬鹿な兄貴だって、恥ずかしいって、」 「そんな事思ってない」 「良いよな、皆の中心は余裕で、俺なんか居ない方が楽になるんだよ。」 「違う、俺の中心は和輝だよ、和輝が居なきゃ、」 「違う..ッ!何処に行っても和哉、和哉、かずや!どうせ双子だ!、御前だけでも十分だろ、御前の中心の和輝は、もう要らない!」 「そんな事ないって、和輝はヒーローなんだ、」 そう、ヒーロー。その言葉が何かを思い出させてしまった。一番分かり易く和輝を求め、和輝を讃えた人の事を。 和輝は次の日から家に帰らなくなった。捜索願いを出そう、と言ってもただの家出だ。なんて突っぱねられた。其れから何となく通い続け、ある日、出ていったあの日のままの和輝の部屋、その日は何故か、探りたくなった、机の引き出し、枕の下、クローゼットの中、ベッドの隙間。 何故か。には意味があったんだ..其処には和輝と手を繋いだり、サッカーボールを持ってたり、走ってたりする、髪の長い男の子の姿が映し出されていた。二人が満面の笑みを浮かべてピースサインをした写真の裏には多分、引越し先の住所と母親が書いたであろう佐々木真佑、という綺麗な字 「..そんなに、会いたかった?、」 手の中で丸まった写真をゴミ箱へと投げる、引き出しの中からマジックを取り出して左目尻、黒子を書いた。鏡の中には和輝が居た。 「和哉ぁ..」 名前を呼ぶ母の前にその姿を表せば双眸を見開いて一瞬固まった。制服を着ていた事もあり、安堵の表情を浮かべてもう一度俺の名前を呼んでくれた 「似てた?」 「ええ、制服着てなかったら間違えてたと思うくらいに」 「そう。良かった」 二人が揃った姿なんて人生でほとんど見た事がないだろう、片方が居れば片方が居ない、そんな中で両親も元気が良いのが和輝で病弱が和哉、とか出来が悪いのが和輝で頭がいいのが和哉、なんて区別を無意識にし始めたのだろう。俺は俺の中に彼奴の影を見付けた   高校も終わり、大学に入学すると共に俺は家を出た。何となく、理由もなく、ただ行けと言われるが儘に毎日大学へ通っていた中スマホの画面に和輝の番号が表示された 「..もしもし、」 「もしもしッ、和輝?今どうしてるの?」 「和哉..番号変わってなくて安心した。」 「変えるわけないだろ、..ねえ、今、」 「母さん達、元気にしてるか?」 「..ねえ、聞いてる?..」 「父さんには感謝してるよ、東京と神奈川って割と近いんだ..もしかして俺有名人になれるかも、恩返しが出来るよ。」 其れを言うと一方的に切られて、その理由を数日後に知った。最初は只の殺人事件、名前も顔も出ず、近くと言うこともあり周りは恐怖を呟いていたのを覚えてる。けれど其れから毎日の様に人が殺され、遂にネットに出た容疑者の名前に驚いた、顔も晒され、皆が此方を見てくる。名前は違えど、顔は同じ。ネットの恐ろしさを知った、テレビなんかよりずっと早く拡散され、俺は犯人になった。 数時間も経たない内に、自主退学を促された。学校に騒ぎを持ち込みたくない、簡単に言えばそういう事だった。 「..かずき?」 「有名になれただろ、俺、まだ捕まってない」 「そうだね、和輝凄いよ。、ねえ、和輝、」 「あ、?なに?」 「逃げてね、和輝、心配なんてせずに、ずっと逃げて、俺は和輝が一番恨むべき人を、殺してあげるから」 だから安心して、携帯を捨てて。そう言って通話を切った。和輝を恨む、そう普通は思うだろう。けれど此れは不幸中の幸い、俺は同じ顔を持ってる、だから、代わりになれる。 その日俺は家に帰り、服を着替えて一つのペンとスマホだけを持って家を出た、左目尻に黒子を落として
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