面影

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テレビから流れる、今日もまた兄の話題。俺の自慢で、今日本の中心人物だ。指紋だなんだは適当な知識で誤魔化した、けど正直俺はテレビに釘付けだった。和輝が女を抱いた。叫ばれたから、取り敢えず首絞めたのかな。その後話題作りに切断か、近くに作業場があって偶々留守、なんて運が良いなぁ..でも指紋付けっぱはやり過ぎ。なんて脳内でぐるぐる考えていたら消されてしまった 今日もまた、弱音を吐いてみる。 ほら、引っ掛かった。きっと和輝はこういう、簡単で、単純な所が掌で転がしやすくて良かったんだろうな。 当たり前だが、一ヶ月過ぎても此処に警察なんてものは来ない。足取りはほぼ明らかな和輝、それ以外を探す事はほぼない。足取りが明らかな和輝が何故捕まらないかって..俺以外に手助けする人間は居る、当たり前だ、犯罪を犯したい、ストレス解消がしたい、なんて奴らは大勢居る、実際は手を汚したくない奴が殆ど、けれど様子を近くで見ている奴はいる。其奴を俺は知ってる ある時此奴は家を出ようと言ってきた。阿呆共が近付いて来て、警察の手が及ぶ事を此奴は知った。冬だ、寒い。夜中に歩いて、空き家を見付けて、また夜まで息を潜める生活が始まった。逃げれるか、と問われた。逃げれる、ではなく、逃げていない、のだから取り敢えず発した言葉、それだけで此奴は安心した様だ 痛みの少ない家の中の出来るだけ軋む音が立たず、風が当たらない場所を探して腰を下ろす。ほんの少し目を閉じれば疲れからか直ぐ様意識が飛ぶ。体感数分、実際スマホを一瞥すれば数時間。寝た時間は明け方だろう、既に昼を過ぎている、隣を見れば呑気に寝息を立てた其奴 「おい、起きろ。真佑、」 軽く声を掛ければ涙が頬を伝う、何度か名前を呼んで、漸く起きた男は俺を抱き締め言った 「忘れてて御免」 御免、御免、と立て続けに謝罪を受けた。聞いて居られなかった。何が「御免」なのか、忘れている事に対する謝罪なら俺にとって腹立たしいもの、佐々木真佑の人生で、松本和輝の存在は其れほど軽いものだったと証明されたのだから " 許さねぇよ " なんて絶対に聞こえてないだろう、こんな言葉を掛けられているなんて、気付きもしないだろう。 ーーーーーーー 障害者トイレに入って歯を磨く。早く此奴と離れなければと思った。けれど不意に漏れた欠伸に目敏く反応した 「眠いか?」 大丈夫、なんて言っても無意味で腕を引かれてあの家に戻った。そして少し綺麗な空間に座らされて、大丈夫なんて宥められた。俺にとっても其れは無意味 取り敢えずと目を閉じていれば畳が軋む音、動き回っている。ギシ、とその音は大きくなったり、スッ、トン。という引出しの開閉音が聞こえたり、そしてどうやら金目の物でも見付けた様だ 「何してんの」 後ろから声を掛けてやれば嬉しそうに此方に光るネックレスを向けた 「人の物だろ」 見ろ、人の物を漁る、小汚い此奴を。和輝、御前にとって此奴はそんなに必要だったのかと問いたくなる程だ。 その後は家を出て、適当に言い訳をして二手に別れた。別れて、彼奴の背中が見えなくなった頃ある男に電話を掛けた 「..俺、離れたから。」 其れだけ告げ終了。相手はほんの少し悪い事をしたくて俺に近付いた男達。俺と和輝が双子だと知り、近付いてきた男達 ──────── 、 「あれ、松本和輝さん?、」 「..違います。」 「知ってるよ、弟だろ。御前、大学辞めるって?」 そう、同じ大学の生徒だった二人。境遇を知ってか知らずか" 夜遊び "へのお誘いだった、一度、一瞬だけ顔を出した。其処は酒と女が広がって、傍らでは薬の受け渡しまで行われていた 「なあ、御前も一緒にやらね?」 「..其れよりも面白い事したくない?酒より女より、薬よりもスリルあって、お金もあげるよ。」 「は?、何それ」 「バイトだよ。良い?、ある一定をこなしてくれればお金をあげる。十万とか、そんな安いお金じゃないよ」 簡単だった。少し脅して欲しい、と頼めば真面目な型に嵌められた反抗期風情は喜んで受けた。きっとそうする事で、フラストレーションの発散をしてたのだろう ──────── .. 夜も更け、待ち合わせ場所の廃墟店で俺は片割れと話していた 「彼奴、上手くいってるかな」 「いってなかったらバイト代減るだけだから。」 「けど、なんでこんな事してるの?」 「..上手く行ったら、教える」 視界に見えた影、息を切らして近付いてくる、しくじったか。本当なら、其処で一発眠らせて攫って、殺す筈だった。近付いて来た其奴の腕を引き寄せた。そしてナイフを持った男を殴るフリをした、もし、眠らせる事が出来ないなら俺が殴って、そのまま逃げて撤収と告げていた。 「脅しが効かなかったなんてね」 俺も、男も正直驚愕したのは事実だった。佐々木真佑はナイフを拾い上げて男に向けていたのだから、 ──────..買われた身だから と続けられた瞬間俺は心臓が跳ねた、逃げる背中に笑っても効かなかったけれど 「彼奴が俺達の事を吐く事はないよ」 彼奴はきっと、遠回しに俺への裏切り表明をしたのだろう。けど此れだけは言えた、あの二人は既に手を染めているのだから。   男に実家に行きたいと告げた。勿論反対は受けたが安全だという保証があった 両親を殺したのは早かったし、その代わりを探すのも容易かった、世の中金で廻っている。両親はそれなりの貯金を持っていたし、俺自身異常な可愛がりから親戚からの支給も多かった。そういうサイトは言葉さえ知っていれば直ぐに出て来るし、百万でも渡せばほいほい言う事を聞いてくれた 「俺の名前を絶対に呼ばないで、呼ぶのなら和輝と。そして、帰りには此れを」 渡したのは車の鍵。その車のトランクには愛する両親が乗っているとは誰も思わないだろう、ほんの少しだけ似た偽の両親は頷いて受け取った。予約した日には家に居てくれると言うから、なんて信頼できるのかと思う、流石は本業の方 両親を殺した理由は簡単で、ヒステリックを起こしたのだ。兄が壊れ、俺が離れ、いつしかテレビは容疑者として報道し始めた。元々慣れない土地で、人一倍世間の目を気にする大人だったから家からも出れず遂には毎日の様に電話をかけて来た 「和哉、和哉..っ!」 取れば俺の名を呼んで、続く言葉は「私が悪いの?」だった 「私が、わたしが悪いの..?違うわよね?」 その奥で聞こえる父の咎める怒声がまた母を叫ばせる。私は精一杯育てたと叫んで、罪を擦り合う様に電話口で言い合っていた。うんざりだった。家に帰ると一言残してその日の内に殺した。 「なんで..かずや、ぁ」 二人が俺を見てくる、何故なんて分かりきった事を。 「二人は、俺が入院してる時全然お見舞い来てくれなかったよね。」 「二人は、俺の為だ、和輝の為だ、って言うけど正直世間の目気にしてた自分達の為、でしょ?」 「ねぇ、どんな気持ち?息子二人がこんなで、ねぇ、俺達の見分け、つかないでしょ。俺がもし、実は和輝だったらどうする?」 なんて、付け黒子を見せれば眉を顰めていた。三度、四度と何度もナイフを埋めた。良かったね、世間の目から解放されて。 毛布に包んだ身体を引き摺って深夜にトランクに乗せた、部屋に飛び散った血を拭いて、静まり返った部屋に安堵した。此処に家族は存在しなかった、と確信できたから 「まだ血の匂いが残ってるな。」
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