ヒロイン

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ヒロイン

俺が毎日見ていたのは、白い天井、窓の外に揺れる木の葉と走る子供たち。きっと、歳は俺と同じか少し上。サッカーボールを持って、公園がある方向に向かってた。 「かずやー!来たぞ!」 元気な声に肩が跳ねる。病室に響く声は、俺と似ていて、近付く姿も瓜二つ。けれど、身体は違った。俺の腕から伸びる数本の管、これが俺の命綱 「かずき..お帰り、」 「今日な、隣に同い年の子が来たんだ!」 「そうなの..?、どんな子?」 「知らない。」 また、珍しい事だ。和輝は直ぐに友達を作る。保育園に入って間も無く病院生活を強いられた和哉とは違い、健康そのものの和輝は保育園では人気者、けれど遊びたいのを堪えて毎日見舞いに来てくれる。けれど其れもそろそろ終わる、小学校が待っている 「..そろそろ小学生になるね!..楽しみだな」 「だな!和哉の分のランドセル、今度持ってくる!」 「ありがとう、」 和哉は薄々気付いていた、自分が一緒には行けない事に。 「..和哉くん、..和哉くんはまだお休みしてようね。」 入学まで一ヶ月程度となった頃主治医と両親の面談中、俺はそう、仲のいい看護婦さんに言われた。子供ながらに意味は分かっていた。一向に減らない薬の量と繋がれる管。物分りの良い子供を演じて頷いてみれば、看護婦はホッとした様に絵本を読んでくれた。知ってる物語、知ってる終結、それでもきっと物語の様に俺が姫なら王子様が来てくれて救ってくれるはずなんだ。俺が困っていたら、ヒーローが来てくれるはずなんだ。   「和哉。」 入学して数週間、学校にも慣れて来た頃和輝が病室に来て満面の笑みを浮かべていた。その笑顔を見た瞬間心臓が跳ねた、嫌な予感がしたんだ。 「前に、隣に越してきた人がいるって言ってたろ?」 「ああ..どんな子なのって聞いた..」 「真佑ッて言うんだ!見た目がちょっと女の子っぽくて、でもすげぇ良い奴だった!」 「まゆ、くん?..女の子みたいな名前だね」 「確かに女の子みたいな名前だし、髪もちょっとだけ長いけど、ちゃんと男の子だから。和哉、そんな事絶対言うなよ。」 和輝の真剣な表情は今でも覚えてる。悟った気がした。きっと俺みたいに女の子みたいだと言われたその" まゆ "と仲良くなったんだって。遊ぶ約束もしてて、次はクラスの子みんなと遊ぶんだって教えてくれた。 次の日、和輝は来なかった。一日来ないくらい、珍しい事じゃない。両親も週に一度来るくらいだから、点滴を押して病院内を散歩して、看護婦さんと話して一日を終えて。次の日も、そのまた次の日も過ごした。窓際に飾られた開けられていないランドセルの箱、その奥に見えたのはサッカーボールを持った数人の男の子。風を浴びる為に起きて開けた窓、ほんの少し身を乗り出してその子たちを見れば、風に靡く長い髪と、響く声 「 かずくん 」 「 まゆ 」 そう呼び合う二人に目が離せなくなった。公園へと走る数人。でもその中で、躓いた真佑に手を差し伸べる和輝の姿。心臓が痛くて、息が苦しくて、手術やリハビリなんかと比べ物にならないくらい辛くなった。 「..まゆ、和輝..なんで、」 管に繋がれた右手が触れた箱、少し押せば、風を切って落ちていった。身を乗り出して、その箱を見詰め続ければアスファルトに音を立てて打ち付けられて、箱が歪になっていた。物語ではきっと、悪い奴はこうなる。歪な形で終結を迎える。
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