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それからも私は順調に回復していった。
もちろん、記憶以外の点でなのだが…
記憶だけは、相変わらず何一つ思い出すことはなかった。
しかし、私は一週間もの間意識が回復しない程の怪我だったというのに、こんなに早く回復したのはクロワの献身的な看護と薬草の知識の賜物だろう…
彼女は傷ついた私の身体に薬を塗り、毎日、酷いにおいのする飲みものを飲ませてくれた。
それは滋養薬のようなものだと彼女は言った。
見ず知らずの私にそこまでしてくれる彼女はとても良い人だと思うのだが、そうとも言い切れないようだ。
いつものようにクロワに付き添われ、あたりを散歩していた時、柄の悪い二人組と出くわしたことがあった。
彼等は遠巻きに私たちをみつめると小声で何事かを囁きあい、くすくすと感じの悪い笑い方をしていた。
そして、すれちがい様に私にこう言った。
「あんた、こんな女と関わってたらえらい目にあうぜ!」
私が怪訝な顔をしたのを見ると、二人はおかしくてたまらないといった風に腹を抱えて笑いながら去って行った。
「…すみません。私のせいで、いやな想いをさせてしまって…」
「あなたが謝るようなことは何もありませんよ。
…だが…
彼等との間に何かあったのですか…?」
「…いえ…そういうわけではないのですが…私は……」
言葉の途切れた彼女には何か言いたくないことがあるのだと感じた。
「…それにしても、今日は本当に良い天気ですね。」
「…え…?
…ええ…そうですね…」
わざとらしいまでに話題を変え、それからもどうでも良いような話題を続けながら家路に着いた。
クロワの家は、厳密にいえば、「小屋」のようなものだった。
村はずれのこのほったて小屋に今まで一人で住んでいたようだ。
すぐ近くに村があるのにこんな所に一人で住んでいるのには、何か理由があるに違いない。
しかし、その理由を聞く必要はない…
聞いた所で、私にそれをどうにか出来るわけもないだろう。
そんなに簡単なことならば、すでになんらかの解決がなされているはずだ。
今まで解決されていないということは、きっとこれからも解決されないということなのだ。
第一、クロワは私にその原因を話そうともしない。
ならば、無理に尋ねる必要はない。
それはきっと「言いたくないこと」なのだから…
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