002 : 天井楼閣

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やがて、月日の流れと共に、私の身体はどこも不自由なく動かせるようまでになっていた。 記憶は戻らないままだったが、だからといって特に支障があるわけではない。 ただ、そのことを深刻に考えると気が滅入るので、あえて考えないようにはしていたが、所詮はその程度の問題でしかなかった。 身体がよくなってくると、当然のことながら、このままクロワの世話になっているわけにはいかないと感じるようになっていた。 だいたい、身内でも夫婦でもないのに、女の独り暮らしの所に住み着くなんて世間体も良くない… もう何ヵ月も住み着いておいて、今更そんなことを気にするのもおかしな話だが、今までは身体が動かなかったという大義名分があった。 しかし、それがなくなった今、このままここにいるわけにはいかないだろう… (…とはいっても、一体、どこへ行けば良いというのか…) 行くあてがないどころか、ここがどこなのかもわからない… さらには自分が何者で何が出来るのかさえもわからない… こんな人間が果たして一人で暮らしていけるものだろうか? そう考えれば心細くもなるのだが、幸いなことに私はまだ若く身体にも問題はなさそうだ。 どこかで、住みこみで働かせてもらえるような職をみつければなんとかなるのではないか…? とにかく、今はっきりしているのは「このままここにいてはいけない」ということだけ。 私はそろそろここを出ていくということをクロワに切り出した。
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