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「どうしてなのです?
何か、ご不満でもあるのですか?
…いえ、こんな暮らしではご不満があるのは当然のことですね…
私、なんとかします…!
もっとおいしいものを食べられるように…そして、もう少しマシな所に住めるように…
ですから、もう少しここにいていただけないでしょうか?!」
彼女の意外な申し出とそのむきだしの感情に私は驚いた。
こんな厄介者の私になぜこの女はここにいて欲しいなどと言うのだろう?
「なぜです?
私がこのままここにいたら、まわりの者達の目もあるでしょう。
誤解されても良いのですか?」
「私は、世間の人の言うことなど気にはならないのです…
どうせ今までだって…」
そう言うと彼女の顔が暗く曇った…
「世間体の問題だけではありません。
今まであなたにはさんざんお世話になってしまいました。
身体が良くなった以上、これ以上あなたにご迷惑をかけることは出来ない…」
「迷惑だなんてそんな…
私は、あなたのお世話が出来ることを感謝していたくらいです。」
全くもっておかしなことを言う女だ。
なぜ、見ず知らずの男を助け世話をしてその上感謝しているなんていうのだろう…
最初はあまり気にもしていなかったが、クロワは地味で粗末な身なりをしてはいるが、よくみれば上品で整った顔つきをしている。
とてもよく働き気も利く。
彼女を妻にしたいと思う男がいても不思議はないのだ。
クロワがよほど醜い女であったなら、私に執着する意味もわかるのだが、そうではないのだ。
「なぜなのです?
なぜ、そんなに私を引き止めたいと思われるのですか?」
私は心のままを率直に口にした。
「…それは……」
彼女は少しためらったように間を置き、そしてこう言った…
「…私は、もう一人ぼっちにはなりたくないのです…」
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