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クロワは唇を噛み締め、震える声でそう言った。
彼女についての詳しいことはまだ何も知らない…
ただ、なにかしら暗い過去があるのだろうとは漠然と感じていたが、それについて尋ねることはなかった。
ここで、彼女の過去について尋ねるべきなのか…?
それで、私に何か出来ることがあるのか?
…そんなことは聞いてみなくてはわからないことだ。
しかし、聞いてしまったら、やはり何もしないというわけにはいかない…
だが、今の私にそんな力が…他人のためになにかしてやる等という力があるのだろうか…?
自分の素性はおろか、名前さえも思い出せないこんな自分に…
そんなことを考えている私の口から、自分でも思いもかけなかった言葉が飛び出した。
「…では、一緒にここを出ましょう…」
「え……?」
彼女が驚くのは無理もない話だが、私自身も驚いていた。
いや、驚くというよりはむしろ呆れていた…
私はなんと思慮のない事を言っているのだろう…
何のあてもない旅に、彼女を巻き込もうとしているのだから…
「本当に連れて行って下さるのですか?」
彼女の問掛けに、ハッと我に返る。
何…?
私のあんな馬鹿げた提案に、彼女は従おうとしているのか…?
彼女の顔は真剣そのもので、真っ直ぐですがるような瞳が痛々しく感じられる程だった。
彼女の瞳を見ていると、無責任な言葉を吐いてしまったことに罪悪感を感じてしまう。
「…行くあてもありませんし、身体はあなたのおかげで元気になれましたが私はいまだ自分に関する記憶もありません。
そのことでトラブルに巻き込まれることもあるかもしれませんし、そうでないにしろ、楽しい旅になるとは思えませんが……それでも良いのですか?」
「かまいません!
どんなことになろうとも、またここで一人で暮らしていくことを考えれば、その方がずっと幸せです。
お願いです!
私に出来ることはなんでもしますから、どうぞ、私も連れていって下さい!」
「……わかりました…」
彼女の気迫に押され、ついそう答えてしまった。
しかし、実の所、私としても彼女がいてくれた方が心丈夫だったのだ。
彼女は、薬草を採ってきてはそれでなにかの薬のようなものを作り、それを売って生計を立てていた。
彼女の知識があれば、そうやって薬を売りながら旅を続けることが出来る。
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