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次の朝、目を覚ますとクロワがいないことに気が付いた。
(…どこにでかけたのだろう?)
私は冷たい水で顔を洗い、そのまま通りの方へ少し歩いてみた。
朝早いというのに、どこかで騒がしい人々の声がする。
声の聞こえる方に導かれるように行ってみると、そこでは市場が開かれていた。
様々な物売り達の呼び込みの声…
店の前を行き交う人々…
久しぶりにこんなに活気のある場所に来たような気がした。
金がないので、何も買うことは出来ないが、見たこともないような品々を見て歩くだけでも面白い。
しばらく進むと曲がり角に店を出すクロワの姿を発見した。
「クロワさん!
どうしてここに?!」
「あ!マルタンさん!
よくここがわかりましたね!
実は、宿屋の女将さんに今日ここで朝の市がたつことをお聞きして、店を出させていただけないかとお願いしてみたのです。
そしたら、幸い、空いてる場所が一つだけあって…
あ…ちょっと待って下さいね!」
クロワの薬は売れ行きが良いようだった。
私と話している間にも客がやって来た。
「……ごめんなさいね。
マルタンさん、見て下さい!
持ってきた薬はほぼ売り切れてしまいました。
こんなことなら、昨夜、頑張ってもっと作っておくんでした。」
そうしゃべっている間にまた一人の客が来て、残っていた薬を買っていった。
「すごいわ、マルタンさん!
もう完売ですよ!
今、店を畳みますから待ってて下さいね。」
「私もお手伝いしますよ。」
そうは言ったものの、小さな敷き物を丸めただけで、他にたいした用はないままに片づけは終わってしまった。
「おっしゃって下されば、私も薬を売るお手伝いをしましたのに…」
「たいした量じゃありませんから一人で大丈夫だと思ったんです。
それにしても、まさかこんなに売れるとは思ってもみませんでした。
こんな日にたまたま来れたなんて、私達、ツイてますよね!
…あ…マルタンさん、せっかくですから少し市を見て行きませんか?」
「…そうですね。」
クロワは本当に別人のようだ。
その急激な変貌ぶりには驚かされる。
旅に出て、まだ一日しか経ってないというのに…
こんなに人の多い所でも少しも物怖じすることなく、彼女は市を楽しんでいるようだ。
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