003 : 地図を広げて

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次の朝、目を覚ますとクロワがいないことに気が付いた。 (…どこにでかけたのだろう?) 私は冷たい水で顔を洗い、そのまま通りの方へ少し歩いてみた。 朝早いというのに、どこかで騒がしい人々の声がする。 声の聞こえる方に導かれるように行ってみると、そこでは市場が開かれていた。 様々な物売り達の呼び込みの声… 店の前を行き交う人々… 久しぶりにこんなに活気のある場所に来たような気がした。 金がないので、何も買うことは出来ないが、見たこともないような品々を見て歩くだけでも面白い。 しばらく進むと曲がり角に店を出すクロワの姿を発見した。 「クロワさん! どうしてここに?!」 「あ!マルタンさん! よくここがわかりましたね! 実は、宿屋の女将さんに今日ここで朝の市がたつことをお聞きして、店を出させていただけないかとお願いしてみたのです。 そしたら、幸い、空いてる場所が一つだけあって… あ…ちょっと待って下さいね!」 クロワの薬は売れ行きが良いようだった。 私と話している間にも客がやって来た。 「……ごめんなさいね。 マルタンさん、見て下さい! 持ってきた薬はほぼ売り切れてしまいました。 こんなことなら、昨夜、頑張ってもっと作っておくんでした。」 そうしゃべっている間にまた一人の客が来て、残っていた薬を買っていった。 「すごいわ、マルタンさん! もう完売ですよ! 今、店を畳みますから待ってて下さいね。」 「私もお手伝いしますよ。」 そうは言ったものの、小さな敷き物を丸めただけで、他にたいした用はないままに片づけは終わってしまった。 「おっしゃって下されば、私も薬を売るお手伝いをしましたのに…」 「たいした量じゃありませんから一人で大丈夫だと思ったんです。 それにしても、まさかこんなに売れるとは思ってもみませんでした。 こんな日にたまたま来れたなんて、私達、ツイてますよね! …あ…マルタンさん、せっかくですから少し市を見て行きませんか?」 「…そうですね。」 クロワは本当に別人のようだ。 その急激な変貌ぶりには驚かされる。 旅に出て、まだ一日しか経ってないというのに… こんなに人の多い所でも少しも物怖じすることなく、彼女は市を楽しんでいるようだ。
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