19人が本棚に入れています
本棚に追加
………何かが聞こえる…
……繰り返す音……
……波の音か…
…ここは…海…?
「…あ……」
最初に私の目に映ったのは、驚いたような表情をした女の顔だった…
驚きと怯えが同居したような瞳で、私のことをじっと見ていた…
「…気が付かれたのですね…!
ご気分はいかがですか?」
そう尋ねられた時に、私は自分が横になっていることに気が付いた。
「気が付いた」と、彼女が言ったということは…
私は今まで意識がなかったということなのか…?
しかし、なぜ、そんなことに…?
身を起こそうとすると、全身が痛んだ。
正確にはどこが痛いのかよくわからなかったのだが、とにかく、起き上がることが無理だということだけはすぐにわかった。
ふと見ると腕を白い包帯で巻かれていた。
「私は一体…」
ふと発したその声はかすれていた。
無意識に何度か咳払いを行い、再び、彼女に尋ねてみた。
「私は一体どうしたのです?」
言った後で思った。
なんとも馬鹿馬鹿しい質問だな…と…
まるで、記憶喪失者みたいではないか…
そう思った瞬間、いきなり自分の呼吸が速くなったのを感じた…
自分の心臓の音が彼女にも聞こえているのではないかと思う程、大きく聞こえたような気がした。
「どうかなさいましたか?
御気分でも悪いのですか?」
女はそう言いながら、私の顔にタオルをあてた。
いつの間にか、私の顔には汗が吹き出していたようだ。
その異常な汗の原因は…
そう…
私の頭の中から、自分に関する一切の記憶が消え去っていることに気付いたからだった。
最初のコメントを投稿しよう!