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「良いんだ。
あんたにはわからなくて当然だ。
ただ、他人にはどんなに馬鹿げたことに思えたとしても、俺はとっては大切なことなんだ。」
「好きな人と離れ離れになっていてもですか?」
「そういうことだな。」
「そうなんですか…」
クロードは、ますますわからないと言った風な顔つきをしていた。
それも無理からぬ話だ。
海底神殿を探すなどということは、一般的に言っても夢のような話だ。
彼のようなタイプの人間には特に理解出来ないことだろう。
「では…この旅はその海底神殿を探すための旅なんですか?」
「…う~ん…」
「そうですよ。
今の私達の目的は、海底神殿を探すことです。」
「マルタンさんまでがそんなものを?」
「先生、私もそうですよ。」
「クロワさんまで?!」
クロードは、リュックだけではなく私達までが海底神殿を探しているということに、かなりのショックを受けたようだった。
「……それで、何か手掛かりのようなものはみつかったのですか?」
「あぁ…たいしたもんじゃないが少しはな。」
「本当にそんなものが…?!」
「実は、あの大聖堂を設計した建築家が、海で溺れた時に海に沈む神殿を見て、それをヒントにしたという話もあったのです。
私のせいで、大聖堂は見にいけず仕舞いになってしまいましたが…」
「水を差すようですが…人間は、切羽詰った状況下に置かれると、ありもしない幻覚を見ることがあるのです。
しかも、あの大聖堂の設計士が亡くなったのはもう何百年も昔の話です。
長い年月の間に伝説が作られただけのことではありませんか?」
「そうかもしれないが、それでも俺は探したいんだ。
いやなら、先生は一緒に来なくて良いんだぜ。」
「僕にとっては、この旅の目的が何であるかは関係ないことです。」
「そうだったな。
あんたの目的はクロワさんだもんな。」
クロードは頷き、クロワはそっぽを向いた。
「まぁ、目的なんてどうでも良いじゃないですか。
皆で一緒に旅が出来ればそれだけで私は幸せですよ。」
そして次の朝、私達は誓いの丘を目指して旅立った。
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