甘味と桜と..

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甘味と桜と..

教えてもらった通りに来た。ここか...『甘菊堂(かんぎくどう)』外見は少し洒落た感じだが、女性客が多い。入りにくいがまぁ茶菓子のためだ。妥協はせん。いざ参る!差恥とワクワクを胸に中へ入れば『いらっしゃいませ〜!』と元気な挨拶がとぶ。ショーケースを覗く。桜餅、宇治抹茶味のケーキ、みたらし団子に三色団子..とたくさんの甘味が並んでいる。 「すいません、桜餅ください」 「はい!ただいま!!」 そして私は渡された紙袋を片手に店を出てルンルンルンと歩を進める。なるほどいい所を知ったなまた機会があれば行きたいな、カフェもあったし。数分してやっとたどり着いた先は代々木公園と言うところだ。たくさんの親子連れやカップルといった人々が行き交う中で場所取りは大変だろう...どうしたものか。噴水近くまで歩くとベンチがあったのでそれに座る。ふぇ〜、疲れた〜。やはり東京は人が多い。いつからこんなになったか..まぁいい桜餅を食べよう。紙袋から取り出し綺麗に舗装されたパックから桜餅を取る。昨日も桜餅で今日も桜餅、なかなか贅沢だな。東京では巻かれたタイプが多いと聞くが...綺麗に巻かれているな。まずは小さくひと口...うん、美味い。少し桜塩が入ってることで白餡の甘さを最大限に引き出し、モチモチ食感を口の中いっぱいに感じる。これこそ桜餅の醍醐味だ。袖からあらかじめ用意しておいた水筒を出しお茶で注ぎ、少し一服。これは美味すぎるな..最高すぎる。いい休日だ... ギギッ ?なんの音だ?自分隣りを見ると男の子が座っていた。これは迷子か? 「なんだ、迷子か?」 「...ちがうもん」 「そうか..違うか。あ〜桜餅食べるか?」 「!..たべる!!」 桜餅を渡し、もちゃもちゃと頬張る男の子はよっぽどお腹がすいていたのだと見受けられる。ふむ..警察に届けるべきか、それとも親探しか..?この子はもしや... 「お茶はいるか?」 「いる!!」 「ゆっくり飲むんだぞ...ところで聞きたいんだが親はどうした?」 「......」 「名前は?」 「こじんじょうほうはおしえちゃダメって、せんせいがいってた」 「しっかり者で偉いな」 男の子は自慢げにえっへんと言う。もう少し情報が欲しいのだが... 「それじゃあ、知らいない人に話しかけられたら逃げることを先生には教わらなかったのか?」 「あっ...」 「今度からは気をつけろよ?悪い人だったら危なかったぞ?」 「おじいちゃんはわるいひと?」 「どこをどお見たらおじいちゃんなんだ!!」 「あたましろい」 「これは地毛だ!お兄さんかお兄ちゃんと呼べ!!」 「にいちゃんはわるいひと?」 「悪い人では無い。安心しろ」 「ふーん」 「それで..?こんな所で何をしているんだ?」 「あそんでた」 「友達とか?」 「...いない」 「そうか、ここら辺は初めてなのか?」 「うん、さいきんひっこしてきたばっかり」 「大変だな。親の転勤かなにかか?」 「うん、ひっこしがおおいからともだちもぜんぜんできないんだ」 「ふむ...それじゃあその友達になってやろう」 「えっ、にいちゃんが?」 「そうだ!」 「でも、にいちゃんのことなんにもしらないよ?ぼく」 「それはこれから知ればいい!自己紹介を最初はするんだ。それじゃ君から」 「えっ、えっとその、くろき あきひろです。7さいで、すきなたべものはオムライスです。きらいなたべものはピーマンです。」 「うむ!よろしい!それでは次は私からだな。私の名前は花神様だ」 「にいちゃんかみさまなの??」 「そうだ、信じてないだろ?」 「うん!」 「ホントに正直だな。それじゃこれを見せていやろう」 周りに人がいないことを確認する。懐から扇を取りだし、ふっと表面に息を吹きかけ風を起こし、地面にある花弁の花々を空中へ浮かせあきひろの周りで踊らせる。満面の笑みであきひろは目を輝かせ、花弁に手を伸ばす。 「うわぁーすごいスゴい!!きれい!!」 「信じるか?」 「しんじる!」 「それでは自己紹介の続きだ」 扇を閉じ術を解く。 「私の名前は花神様。年齢は忘れた。好きな食べ物は全部だ!嫌いな食べ物特にない。ちなみに私のことは誰にも言うなよ?約束だ」 「うん!やくそく!」 「よろしい!んーあきひろと呼ぶべきか?」 「うん!にいちゃんはなんてよべばいい?」 「そうだな〜、今のままでいい。その方が呼びやすいだろ?」 「じゃあそうする!なにしてあそぶ?」 あきひろはベンチから飛び降り、私の前に立ってウキウキわくわくとこちらに視線を向ける。やっと子供らしい顔になったな。 「影踏み?かくれんぼ?かけっこ?鬼ごっこ?」 「いや、ここは旅に出てみるか」 「えっ!たび!どこに?」 「少し大変だがまぁすぐだろう。あきひろ、私の腕に掴まれ」 あきひろは小さな手でしっかりと掴まる。 「それでは行くぞ!」 「うん!」 私はパチンと指を鳴らし、鈴の音と花弁をその場に残し代々木公園を去った。
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