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母のぬくもり..子の成長
母に会いに、私はあきひろと家の前に立っていた。
「ここだな?」
「うん!」
あきひろはそう答えると家の中へと入る。もちろん幽霊なのだから壁を抜けて。私はその後を追う。着いた先は和室になっており、壁の一角に仏壇がある。そこにはあきひろの母であろう...いや、母なのだろう。仏壇の目の前に、重くずっしりと座っている。あきひろの写真を見つめ、憔悴しきっている。あきひろはそんな母の背中に抱きついた。懐かしく、大好きでたまらなかった母の香り、優しく温もりのある背中。ゆっくり..ゆっくりと噛みしめている。
「あきひろ、なんで、どうしてこうなったの。どうしてあきひろが死ななきゃ行けなかったの。まだたくさん..たくさんやることあったのに...うっうう..」
「...おかあさん。僕ここにいるよ」
私はあきひろがここにいることを母に少しでも感じてもらえるよう、扇を取りだし横に一振する。するとあきひろは母にうっすらと見えるくらいにまでなった。母はわずかな重みを感じ後ろを振り返る。
「あきひろ!!」
「おかあさん!」
ギュッとあきひろを抱きしめる母は涙を流し、そこにいることを確認している。
「あきひろ、生きていたのね」
「...違うよ、おかあさん。僕本当に死んだんだ。最後におかあさんに会いたくてにいちゃんに連れてきてもらったの」
「えっ..」
私は自分の姿を見えるようにした。母は目を大きく開け驚いている。
「あきひろの母ですね。本当にこの度はお悔やみを申し上げます。」
私は深々とお辞儀し、それにつられ母もお辞儀する。
「あの、神様なんですか?」
「ええ、花神様と人からは呼ばれています。ただのしがない神ですが、この度息子さんのあきひろを偶然公園で見かけ話を聞き、ここに来た次第です」
「おかあさん!あのね...」
あきひろは母の目を真っ直ぐと見て、にっこり微笑む。
「僕ね、車にぶつかってからおかあさんと離れてすごく悲しくて怖くて、1人が嫌で...そしたらにいちゃんにあって友達になったんだ。」
「...そうだったの」
「それでね、今日はおかあさんにお別れが言いたくて来たんだ。おかあさん...僕幽霊になっちゃったけどすごく元気だよ。僕おかあさんと別れるの嫌だけどまだ、おかあさんと一緒にお家で住みたい。もっともっともっとずっと...」
「...あきひろ!!」
母は、大粒の涙を流すあきひろをギュッと抱きしめる。
「あきひろ、あきひろ!!うっ...うっうっ......おかあさんもずっとずっと一緒にお家に住みたかった。あきひろの誕生日を祝って、体育祭の記録も撮って、いつか小学校を卒業して中学生になって高校生にもなって...あなたの人生をずっと私が死ぬまで見守りたかった。だけどこんな..こんな小さくして、先に亡くなるなんて....」
「うっ...ひぐっ..」
「あの時、私が傍にいてあげてたら!!」
あぁ、なんて理不尽なのだ。こんな世界が今は一般的なものとなっている。全ての偶然は良く言えば奇跡だ。本当に上手く出来ている言葉だと思う。だが、こんなものが通用する世の理は神さえも決めれない。人の生死を左右できるのは人だけ、自分自身なのだから。例えそれが偶然..奇跡...だったとしても。
「あきひろの母..」
私が呼ぶと、2人は泣きながらこちらに向き直る。
「なんでしょう」
「これから言うことはただのしがない神の戯言だとして聞いて欲しい。あきひろのことでもあるからしっかり聞くんだよ?いいね?」
「うん」
「神は、本当は人とは関わっては行けない!縁を持つな!ましてや霊などもダメだ!と言われています。が、あきひろとは友達という縁を持ってしまったので強制的に霊としてのランクがアップします。ですので、今あきひろは幽霊ではなく少し妖精など神的なところにちょっと近いところに今位置している訳です。」
2人は私の話に涙が引っ込みポカーンとただ見つめている。
「?おかあさん、どういうこと?」
「あきひろはちょっと神様みたいになってる?のかな?」
「そのとおり!!少し妖精に近い存在に、なってるんだ!」
「神様と関わるだけでそんな簡単に...」
「ええ、霊はそういうのを受けやすい体質になっているので...ほとんど関わることがないので滅多にない事なのですが」
「僕ようせい?」
「そそ、あきひろは妖精にちょっと近い。ので、このまま私のところに来ない?」
「神様のところにですか?」
「はい、あきひろはもう幽霊ではありません。その場合、特例ですが私があきひろを貰い受けます。その方が死神から追われることも無くなりますし、何より私があきひろと関わった以上捨てるなんてことは出来ません。するつもりもありませんが...どうでしょうか、そこを私はあなたに聞きたい」
「私ですか?」
「確かにあきひろの意見を尊重するべきですが、その前にあきひろの母であるあなたの意見を聞くべきだと判断しました。」
「私は、あきひろの幸せが第一で..もしそこで暮らしてずっと笑顔でいられているんだったら私は...」
「僕おかあさんに会えないのは嫌だし、怖いとこ嫌だけど、にいちゃんのところだったら行きたい!!」
「そう、あきひろがそう言うんだったら...神様、よろしくお願いします」
母は深々と頭を下げ、ゆっくりと顔を上げる。瞳を潤ませ、体は震えている。耐えているんだろう。
「はい、大切に貰い受けさせていただきます」
私もゆっくりと、深々と頭を下げた。
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