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閻魔横丁
みなさん僕はあきひろです、よろしくお願いします!今僕はにいちゃんと一緒に...
「着いたぞ、あきひろ!ここが閻魔様がいる閻魔界..そしてこの目の前にある通りが閻魔横丁だ」
「わぁ〜!!」
閻魔横丁に来ています。
沢山の笛や太鼓の音が雑踏の声と共に聞こえ、それが気持ちよく、陽気な気持ちになる。が、やっぱり皆顔が鬼なのでとても怖くあきひろは怯え少しこじんまりとする。
「スゴいだろ?ここでは何でも揃う。食べ物に服に家具にとその他もろもろ、屋台なんかはいいぞ!。団子に焼き鳥、蕎麦屋に天丼屋、帰りになにか食べさせてあげるよ」
「うん!」
グゥ〜〜
「ははッ、何かちょっと買い食いしよう。そうだな〜何が食べたい?少し腹を満たすくらいが丁度いいだろう」
「うーん、甘いの食べたい」
「なら、饅頭なんてどうだ?」
「う〜ん...」
「...団子」
「うーーーーん」
「ん〜〜〜.....わらび餅」
「うんうんうんうん!!!!!」
「よし、それで行こう!」
やっと腹ごしらえが決まった私たちはわらび餅を求め閻魔横丁をねり歩く。ただ、あまりの雑踏の多さと鬼の顔が怖いせいであきひろは私の足元でキョロキョロと周りを見渡ししがみつく。ははッ、愛らしいな。なるほど、母親とはこういう気持ちになるのだな..
「あきひろ、おいで」
私は中腰になりあきひろを呼びかけ、片腕にあきひろを抱えまたねり歩く。
「あきひろ大丈夫だ、なんたって私が着いているのだから。それに、ここの鬼たちは顔こそ怖いが皆優しい奴ばかりさ。」
あきひろはギュッと私の服を掴む。
「ほんと?」
「ああ、あとあきひろも覚えておくといい。ここは閻魔界だ。もし誰か罪を犯せば閻魔様が裁きを下す。たとえ鬼でもだ、人間だけじゃない」
「閻魔様?」
「閻魔様はこの閻魔界の一番偉い人で人間が死んだ後天国か地獄のどちらかを決めてくれる方のことだよ」
「絵本で読んだことあるよ!髭がこーんなに伸びてて、大きくて、目が怖い鬼だ!」
「そうだね、絵本ではそうなってるけどこっちの閻魔様はちょっと違うかな?..あっ、着いたよ。閻魔界一美味しいわらび餅屋、『翠麟堂』」
「すいりんどう?」
「そう!翠麟堂!早く中入ろうか」
暖簾をくぐり中へ入る。
「わぁ〜!!」
そこに広がっていたのはなんとも不思議な光景だった。小さな金魚たちがゆらゆらと尾をなびかせ店内を泳ぎ、獄彩色の鱗はキラキラと光に照らされ店内を彩る。なんて綺麗な光景なんだろう、と私はここへ来て何度も思ったことか、数知れず..あきひろは瞳を輝かせ、ぐるんぐるんと首をあれそっちやどっちやと振りあたりを見る。
「にいちゃん、これってどうなってるの??」
ワクワクとこちらに期待の目を向けるあきひろはやっと子供の顔になったなと少し思う。先程までは、鬼を怖がり、寂しそうな顔をしていたからな..母との別れも先ほどしたところだ。少しは元気になっただろうか?
「ここ翠麟堂の鬼たちは少し特殊で、彼らの体は霧できているんだ。だから彼らを皆霧鬼と呼ぶ。霧を操り、この獄彩色を作る。虹の作り方と少し似ていると前に聞いたな。とても素晴らしい妖力だよ」
「ようりょく?」
「妖力と言うのは鬼たちやその他の悪霊、妖怪なんかが持つ力のことなんだ。絵本とかで言う魔法みたいなものだね」
「あら、花神さんいらっしゃい!」
そこで声をかけてきたのは、翠麟堂の店主の妻である千代ちゃんだ。
「久しぶり千代ちゃん、元気だったかい?また綺麗になったんじゃないか?」
「やだぁわぁ〜花神さんったら〜、もうお世辞が上手なんだから。あら?そちらの子は?」
「あーそうだね、あきひろ挨拶できる?」
「えっと、うーんと、うん!!僕できるよ!」
「まぁー元気ね!お名前は?」
「くろき あきひろ!」
「何歳かな?」
「7歳です!」
「しっかりできて偉いねぇ」
千代ちゃんはあきひろの頭を撫でようとするがびっくりしたあきひろは少し顔を怖ばせる。
「ごめんね。少し怖かったよね」
「千代ちゃん、あきひろはここに初めて来たんだよ」
「そうなのね。それじゃあ、私たちはちょっと怖いわよね?だって鬼だもの」
「そっ、そんなことないよ!!僕、ここ初めて来たけど千代ちゃんは優しいもん」
「ふふっ、ほんといい子ね。ありがとう」
「うん!!だから撫でて!!」
あきひろが頭を催促し撫でて撫でてと迫るものだから、千代ちゃんは慌てて撫で、2人してニッコリと笑う。あー、良かった。結構馴染めてきたみたいだ。
「そういえば、あきひろくんはどうしてここに?何かしたの??」
「あーそれは、わらび餅頼んだら話すよ。どうもお腹が空いて、はは」
「まぁ!それは大変!!あなた〜、わらび餅1つ!!味は....なにがいい?」
「私は普通ので、あきひろは?」
「僕も一緒のがいい!」
「それじゃあ、普通の2つづつね!あなた〜普通2つー!!」
「わかったー」
「それじゃあ、席に案内するわね。奥の方がいいかしら?」
「ああ、それで頼むよ」
翠麟堂の通路を千代ちゃんに案内されながら、奥へと向かう。金魚とぶつかるがシュワシュワと炭酸のように消えていく。なんとも幻想的だ。
「この部屋でいいかしら?」
「ああ、ありがとう。」
「わらび餅持ってくるわね!」
ササッと水を出し、千代ちゃんはわらび餅を取りに行った。
「にいちゃんは、たくさんお友達いるんだね」
席に着いたあきひろは不思議そうにこちらを見つめてくる。
「なぜそう思ったんだい?」
「だって、僕と初めて会った時は一人だったから...」
「あー、そういえばそうだったね。なるほど、だからそう思ったのか」
「なんであんなに多いの?」
「うーん、そうだな。伊達に長く生きてないからね。正直な話、私はものすごく昔に生まれたから、生きてきた分だけ関わってきた人が沢山いるんだ。だから必然的に多いのかもな」
「あらあら、必然的ではないと思うわよ」
千代ちゃんが話を聞いていたのか、部屋に入り、話しながらわらび餅のお膳を机に並べていく。
「花神さんはね、確かにとても昔に生まれてお友達が必然的にできたかもしれないけど、それを差し置いてもこの神様にはお友達が出来て行くわ」
「どうして?」
「ふふっ、みんな花神さんの事が大好きだからよ。懐が深く、情が熱く、木漏れ日のような暖かな優しさ、幸せをくれる、こんな神様は他になかなか居ないわ」
「ちょ、千代ちゃん!大袈裟だよ、照れるじゃないか」
「本当のことを言ったまでよ。あきひろくんもそう思うでしょ?」
頬を少し赤らめた私は少し困ったようにあきひろを見る。千代ちゃんはウキウキとした顔をしている。
「僕、にいちゃんと会って、友達になって、お母さんにも会わせてくれて...僕そんなにいちゃんが大好きだよ!!」
「あきひろ..本当はここに連れてきて良かったのか少し心配してたんだ。僕と一緒に来る以外にも天国に行く手段だってあった。最初、あきひろの母のところに行く前は天国に送ると言ったのに...すまない。今からでも遅くはないんだよ?天国に行くかい?」
「僕、にいちゃんと一緒に行くよ!だって今幸せだもん!!」
「ああ、そうか、良かった..本当に」
私は迷っていたのかもしれない。この歳にもなってまだまだだと、少し自分で痛感してしまった。これはあきひろに救われてしまったかな。
「さぁさぁ、積もる話も食べながらよ!翠麟堂自慢のわらび餅、たんと味わってお食べ!」
目の前に置かれているわらび餅は普段食べているようなものとは違う。升の中には1匹の金魚が仰向けで泳ぐように、わらび餅の中に入っている。それも升の中にぎっしりと。
「あきひろ、この食べ方は升からわらび餅を出して、黒蜜ときな粉をかけて食べるんだよ」
と、手際よく升をかぽっと皿の上に被せ、わらび餅を出す。キラキラと光るわらび餅の中には先程仰向けになっていた金魚が正面を向いて、綺麗に泳いでいるように見える。
「わぁ〜〜!すごい!!」
「あきひろもやってごらん?」
「うん!」
少しおぼつかないがゆっくりゆっくりとその行程を楽しむようにしている。いい笑顔だな〜。
「できた!!」
「うんうん、それじゃあ黒蜜ときな粉をかけよう。あきひろ、かけてみるといいよ。きっと驚くから」
「わかった!かけるよ!!」
あきひろはゆっくりと黒蜜をわらび餅の表面にかけていく。すると、ゆらりゆらりと金魚がわらび餅の中を動き出し、黒蜜がゆるゆると水面の波紋を描き出す。金魚が動くたびに波紋がたつ。まるで水槽に入れられた本物の金魚のようだ。
「すごく綺麗!!どうやったらこうなるの??」
「これも霧鬼特有の妖力だよ。ここは彼らの領域だ。霧で幻術をかけることも出来れば、店前でも言ったように霧を操ることも容易い。物に妖力を流し込み、微粒の水さえもその中で操り動かすことが出来る。このわらび餅はそういう術が組み込まれているんだよ。体に害はない。ただ、もし霧鬼たちが敵になれば、それはそれはたまったものじゃないだろうね。」
「花神さんに言われると誇らしいわ」
「ふーん、なんか、よく分からないけどすごい鬼なんだね」
「そうだろうな、ちょっとあきひろには難しかったな。まぁ、いずれ分かるよ。それより、さぁ食べよう。きな粉をかけて!」
「うん!!」
あきひろは、さらさらときな粉をかけ、わらび餅を切り食べる。
「どうどう?」
「美味しいー!!」
「良かった〜お口にあって何よりだわ」。
私も食べることにしよう。プルプルと揺れる見た目はとても魅惑的だ。口に運ぶときな粉の香りと共に黒蜜の深い甘味が口の中いっぱいに広がる。フニフニツルツルと踊るわらび餅の感触を楽しむ。あー美味しい。
「わぁー!あんこだ!!」
「ふふふっ、金魚のところは餡子になってるの。白餡を赤色で着色してるのよ」
「本当に、ここのわらび餅はいつも驚かされるよ」
「これからも是非御贔屓に...そういえば、今日はどうしてここに?」
「あー、それはね」
私はこれまでのいきさつを話した。あきひろのことはあまり深く語らないように、当たり障りなく。また悲しくさせてしまうのは心苦しいからだ。
「まあ、それじゃあ、あきひろくんは花神さんの眷属になるのね!!」
「けんぞく?」
「えーとね、私の家族みたいなものかな。お手伝いもしてもらう時があるけど」
「僕お手伝いするー!!」
「すごいわね〜花神さんの眷属なんて。花神さんはね、眷属を持ったことがないんですって。だからとても誇り高くて名誉のあることなのよ」
「僕偉いの?」
「ふふ、私はそこまで偉い神様ではないけどまぁすごいことだと思うよ。ほんとに眷属なんて初めてだから」
「偉い偉い、あきひろくんは偉いよ。これからは楽しくなりそうね、花神さん」
「うん、少しワクワクしてるよ。この歳にもなって」
「ふふっ、いい事よ。この後は、どうするの?閻魔様に会いに行くんだったら、今だとお仕事中だと思うのだけれど」
「うーん、まぁぶらぶらするよ。あきひろにこの光景を少し慣れさせたいからね」
そう千代ちゃんと話していると、あきひろはいつの間にかわらび餅を食べ終わっていた。子供はこれだけ食欲旺盛なのか?ついさっき食べたばっかりだったような気がするが...私も早く食べよう。
「次はどこ行くの?にいちゃん」
「うーん、そうだね。店を出てから考えよう、時間はたっぷりあるしね」
「うん!」
それから数分後、私達は翠麟堂を出た。
「また来てね〜いつでも待ってるわ!」
千代ちゃんの元気な声と共に出て、また閻魔横丁をねり歩く。しかし美味しかったな〜、またあきひろと来よう。
「美味しかった〜また行きたい!」
「あぁ、また行こう。さて、どうするか..何もすることがなくなってしまったな。」
「にいちゃん、おトイレ行きたい」
「えっ、トイレ??待って待って、あきひろ我慢して」
なんとまあ、いきなりだな。
手を繋いで、少し急ぎ足で厠へと急ぐ。
「よし着いた!さぁ、行っといで」
「うん!待っててよ!!どこにも行かないでね」
「ははっ、行かないから早く行っておいで。扉の前にいるから」
「絶対ね!」
あーどうしよう。母性とはこのことを言うのだろうか、かわいいなぁ〜。いや、私的には祖父感覚だろうか?
「にいちゃん、にいちゃん!!助けて!!」
「えっ、なに?どうしたんだい?」
扉の向こうから聞こえてくるあきひろの声はどこか焦っているようだ。
「これ!どうやってトイレするの?」
「ん?」
「僕これのしかたわかんない。あとここくさい!!」
「あっ!そっか!!和式まだ使ったことないんだね!!あきひろそのトイレの穴に落ちちゃダメだよ!!!それぼっとん便所って言う、昔のトイレだから!あきひろ出てきて、ちょっとトイレ我慢してね」
あきひろは早く〜っと言いながら出てきて、私の元に来る。私は待ってましたと言わんばかりに、指をパチンと鳴らしその場から、鈴の音と共に消えた。
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