利子の分だけ

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 あの日は、途中まで楠原と一緒に帰った。だってほら、中学が一緒なんだから家の方向が一緒だし。別に、何かがあったとかそんなわけじゃない。  今も――何かがあったとかそんなわけじゃない。俺と楠原は、前と変わらずに、中学のときの同級生だ。ただ強いて言うなら、廊下であったときにちょっと話したりはするようになった。「八組、文化祭は何するの?」とか「中二のときのよしきっち、あきなちゃんと結婚するって知ってる? 妹が言ってたんだけど」とかそんな感じのことを(『よしきっち』も『あきなちゃん』も先生のあだ名だ)。あと、これは俺の話だけれど、先月に行われた球技大会では、相手チームのピッチャーだった楠原の元彼から、九球粘ってツーベースを打ったりはした。  窓からグラウンドを眺めながら歩いていると、少し先の女子トイレから楠原が出てきた。ちょうどよかった、と思って後ろから声を掛ける。 「楠原」 「うわぁっ……!」  高い声を上げた楠原が振り返る。思わず吹き出すと、「瀬川か。もー、びっくりしたじゃん!」とわざとらしい感じでにらみつけられた。 「ごめんごめん。でも、ちょうどよかった。地学の資料集、誰かに借りたかったから。持ってたら貸してもらえると嬉しい」 「しょうがないなー」  楠原は尊大な声を出したあと、朗らかに笑った。「貸してあげる。昔のよしみ? みたいな?」って。  
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