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人間界でお金を司る、金融専門の上級悪魔。
それが今、あたしがメイドとして仕えている主人の正体で、名前をフィーナ・ロン・マーネルイドという。
あまりにも長ったらしくて覚えてらんないから、あたしはフィーナとかフィーとか呼ぶんだけど、さすがにフィーは省略しすぎだと突っ込まれるのよね。
で、あたしこと長岡由美は、初めは一日限りだった契約を大幅に伸ばして、半年間、フィーナの家でご奉仕をする事にした。
半年というと結構長いように思われるかも知れないけど、魔界と人間界では時間の流れが全く違う。
例えば今回のように、魔界で半年間メイドの仕事をした後に人間界へ帰っても、人間界では、たった六時間しか経過していない事になる。
どうしてこんな時間のズレが起こるのか、詳しい原理は分からない。
ただ一つ言えるのは、魔界は地球には存在しない世界なので、人間界の常識が全く通用しないという事。
魔界に半年いたら、あたしは一つ年を取って三十三歳になるんだけど、人間界に戻れば半年分若返り、三十二歳のままでいられるらしい。
まぁぶっちゃけ三十二だろうが三十三だろうが、今さら大して変わりゃしないんだけどね。
で、そんなアラサー女であるあたしの事を見初めて、メイドを雇いたい、という名目で自分の家に呼び込んだ奇特な男が、フィーナという悪魔。
フィーナはあたしの美貌と、悪魔に一切物怖じしない性格に惚れ込んだらしいんだけど、ほんとに自分でいいのかなぁって気はするのよね。
まぁ美貌は否定はしないわよ、何つっても大学生の時に、それなりに有名なミスコンで賞をもらった事だってあるんだし。
だけど今じゃあその美貌にも陰りが見えてきつつあるし、少し目立ち始めたほうれい線も気になる。
もっと言うと、三十路過ぎの女って、人間としてはすでに結婚適齢期を過ぎちゃってるわけでしょ。
そんなあたしが、あのイケメン悪魔のフィーナと釣り合うのかなぁって、相手の事を心配しちゃうのよね。
……なんて事を考えてたら、フィーナがいつもの仕事を終えて帰ってきたみたい。
最近は労働力よりも、もっぱら寿命の売り買いだけで儲けているらしいんだけど、今日は、一体どんな人間と取引してきたのかしら。
「由美様! フィーナがただ今帰宅いたしましたよ!」
「はいはい、お帰りなさいませ」
ハイテンションでゴキゲンなフィーナに対し、あたしはいつもの調子で出迎える。
「いやぁ、今日もいい取引ができました。これも全て、由美様が家中のお金をまとめて管理してくださったお陰でございますよ」
「もう、あんなに骨が折れる作業は一回きりにしたいから、今度は床にバラ撒くんじゃないわよ」
「それはもう重々に……」
と言うと、フィーナはあたしの右手を取り、ひっくり返した手の甲に口づけをする。
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