悪魔のメイドはアラサー女 AFTER

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 フィーナの家に仕えて一週間も経つと、毎日これを繰り返されるのも、すっかり慣れてしまった。  だけど、日本じゃあんまりこういう風習は根付いていないから、正直複雑な気持ちなのよね。  これまでは人間界でデスクワークの他、自分や元カレの家の炊事や洗濯、掃除まで全部一人でやってたもんだから、爪がもうボロボロ。  おまけに加齢のせいで、手の水分が少なくなってきてカサカサなもんだから、恥ずかしいったらありゃしない。  そんなあたしの手に嬉々としてキスするフィーナは、余程あたしの事を気に入ってくれたんだろうなってのは分かるけど。 「それで、今日はどんな人と取引してきたの?」 「その件は、紅茶でもいただきながらお話しましょう。由美様、いつもの茶葉でお願いできますか?」 「ゴールデンチップスね、分かったわ」 「結構。ちゃんと、二人分をご用意くださいましね」  と、フィーナが念を押す。  一応あたしはこの家に仕えるメイドで、フィーナは御主人様という主従関係の契約なんだけど、紅茶を飲む時は、いつもあたしの分まで作れと言ってくる。  要するに、ティータイムの時だけは、一人の悪魔と一人の女という、フラットな関係でありたいという事らしい。  人間界の通念なら、弱みを握られる人間を見下すのが悪魔のはずなんだけど、フィーナの考える事は、その普通とはかけ離れているみたい。  まぁそんな性格だからこそ、さまざまな人間たちと、お金に関する丁々発止(ちょうちょうはっし)のやり取りに打ち勝ってこれるんでしょうね。 「はい、お茶が入ったわよ。今日はシュガーとミルクは、どのくらい入れるのかしら?」 「そうですねぇ。今日はどちらも多めの、甘々でまろやかな口当たりを楽しみたい気分です」 「じゃあたっぷり入れておくから、ちゃんとかき混ぜるのよ」  あたしはフィーナの紅茶にスティックシュガーを二本分と、コクのあるミルクをなみなみと注いだ。  ちなみにミルクはフィーナが選んだ牛乳を使っているんだけど、どこの国のものがいいのか分からなくて、結局北海道の牧場で直売されている瓶入りを買ってきたらしい。  お金を持て余しているから品質のいいものを欲しがる気持ちは分かるんだけど、牛乳の高級品って言うほど無いのよね。 「この香り高さ、そして新鮮な牛乳と安物シュガーのマッチング! 実に甘美でございます」 「安物で悪かったわね!」  イラッと来たあたしは、憤怒の形相でフィーナを睨んだ。  このスティックシュガーはあたしの家にあったもので、五十本入りで百九十八円。ちなみに税抜き価格。  別に砂糖なんて何でもいいって聞いたから、家計の事も考えてこれを持ってきてあげたのに、とんだ言い草だわよ。
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