悪魔のメイドはアラサー女 AFTER

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「先日もお話しした通り、人間界に生じる様々な不平等の差を埋める事が、我々悪魔の使命であり、存在する理由なのです」 「ええ、その理屈は分かるわよ。でも」  とまで言ったところで、フィーナがあたしの口を人差し指で制した。 「悪魔に魂を売ってでも欲しいものがある限り、我々が活動を止める事はありません。先ほど、信仰の自由があると仰られましたが、それならば、悪魔信仰なるものが存在するのもまた自由でしょう?」 「んー……」  聞けば聞くほど、もっともらしい言い分のように思えてくる。  これが〝悪魔のささやき〟ってものなのかしら?  だけど何だか、うまく言いくるめられているだけのような気がしないでもないのよね。 「わたくしと取引した人間のほとんどは、もはや神など信用していない者ばかりです。あるいは、神に見捨てられたと言い替えても差し支えないでしょう」 「だから、そこにつけ込んで激安で寿命を買ったり、高額で売ったりするわけ?」 「つけ込む、という表現は適切ではありませんね」  そこまで話すと、フィーナは再び紅茶に口をつけた。 「わたくしと人間との双方で、そういうレートで合意したからこそ、契約は成立するのです。決して無理難題をふっかけているわけではないのですよ」 「だとしても納得がいかないわ」  あたしがさらに食い下がると、さっきまで笑顔だったフィーナが、突如として困ったような顔をする。 「由美様……上級の悪魔に対して、そこまで異論をぶつけてくるのは、あなたが初めてでございますよ。一体、何に納得がいかないのです?」 「あなた、寿命ってものを(かろ)んじすぎじゃないかしら。悪魔だから分からないのかも知れないけど、人間にとっては寿命は一年でも、たとえ一日でも大切なものなわけ」 「ええ。それほど大事なものだからこそ、高値で取引ができるのですからね」 「そんな大切な寿命をお金に変えるほどお金に困っている人に対して、あなたって悪魔はサービス精神が欠如しているのよ」 「サ、サービス精神?」  フィーナが目を丸くして聞き返した。  余程聞き慣れない言葉だったのか、とにかく意表を突かれたのは間違いなさそうだわ。 「いいこと? そもそも寿命という概念が無ければ、あなたは売る事も、買う事すらもできないのよ。商売する品が無い、手ぶらな悪魔と取引したい人間がいると思う?」 「まぁ、いないでございましょうね」 「それは認めるのね。つまり、あなたの契約が日々成り立っているのは、あなたに寿命を売ってくれる人たちがいるから。そうでしょう?」 「ええ。そういう事になります」 「そんな人たちへの感謝の気持ちが欠けているのは、悪魔として失格だってあたしは言ってるのよ」 「感謝? 失格?」  今言ったフレーズが魔界に存在しないものだったのか、フィーナは激しく動揺している。
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