悪魔のメイドはアラサー女 AFTER

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「ゆ、由美様。わたくしにはその言葉の真意を図りかねます。一体何を仰っておられるのですか?」 「あなた、不平等で生じた差を埋めるって言っておきながら、買った寿命に対して、その不平等を埋めるほどのお金を渡していないじゃない」 「あのう。何度も言うようですが、十年で百十万円は相当な出血大サービスだと……」 「だったら十億で売ってんじゃないわよ!」 「ひっ」  バシーンと、大きな音が部屋中にこだまする。  怒りに任せてテーブルを叩いた衝撃で、紅茶の入ったカップやミルクポットがカチャカチャと激しく揺れた。 「十億で売れるものを百十万円で買い叩いておいて、何が平等なのよ! この嘘つき!」 「ううう、嘘つき!?」 「ほんとに平等を語りたいなら、寿命を売ってくれた人にも、還元してあげなさいよ!」 「由美様……どうか落ち着いてくださいませ」  フィーナがオロオロしながら、身を乗り出しそうな勢いのあたしを制する。 「いくら何でも、十億をそのまま支払うと、我々悪魔には何の利益もなくなってしまいます。それではただの慈善事業ではございませんか」 「上等じゃないの。慈善事業する悪魔がいて何が困るのよ」 「困るも何も、全くの無銭になってしまったら、一切の取引ができないわたくしは用無しとして〝否定〟され、存在を消されてしまうのです」 「え? そうなの?」 「はい、お恥ずかしながら。由美様は、〝悪魔の証明〟という言葉をお耳にされた事はございませんか?」 「聞いた事はあるわよ。要するに無い事の証明をしろって無茶を言うんでしょ」 「人間界では一般的にそういう意味で通っておりますが、魔界における悪魔の証明とは、人間たちに〝存在しないと誤認させる事〟こそが存在の証明になるのでございます」 「うん。それは何となく分かるわ」 「人間界には存在しない(てい)で活動する事が悪魔の証明として通っているのにもかかわらず、本当に存在しなくなったら、その証明すらもできなくなります」 「難しい話ね。つまり、どうなるの?」 「つまり、証明ができない悪魔は最初からいなかった事にされ、これまで交わしてきた数多(あまた)の契約も全て反故(ほご)になってしまうのですよ」 「ええっ、そんな大事(おおごと)になるの!?」 「はい。わたくしの場合ですと、契約が反故になった途端、寿命を買った人間はその時点で死に、寿命を売ったがゆえに死んだ人間は、死体のまま寿命だけが戻されるため、それはもう、人間界がになってまうのでございます」  何で最後だけ名古屋弁になるのかは分からないけど、とにかくどえりゃー事だわ。 「何よそれ、メチャクチャじゃない。何でその事を、もっと早く話さなかったのよ」 「はぁ……誰にも聞かれませんでしたので」  と言うと、フィーナは面目無さそうに頭を掻いた。
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