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要するに、悪魔は悪魔なりに、陰で人間のためになる活動をしていて、それが不要として否定されると、いよいよ自分たちの存在を証明できなくなって、この世から消えて無くなっちゃうらしい。
悪魔を求め、その力を体よく利用してきたのも、誰あろう人間だけだというのに。
あたしはこれまで、悪魔を禍々しい化け物かのように扱い忌み嫌ってきたけど、ほんとはこんなに繊細で、かよわい存在だったんだ。
しかもフィーナはイケメンだし。
そういう話を聞かされると、何だかこの子の事がかわいそうに思えてきちゃった。
「ですがわたくし、由美様のおかげで決心がつきました。これから、取引をしてきた全ての人間の元に訪れ――」
「待ちなさいよ」
「はい?」
「あたしとの契約が残ってるでしょ。あなたのメイドとして、あと半年働く契約が」
「その件につきましては、契約を解除する儀式を行うことで、すぐにでも自由になれます。どうぞご安心くださいませ」
「そうじゃないでしょ。あたしは、フィーナの気持ちが聞きたいのよ」
「わたくしの、気持ちですか?」
「そう。あなたがあたしを雇ったほんとの理由は、一体何だったかしら?」
「それは、そのぅ、わたくしが由美様に〝ホの字〟になったからです」
「じゃあ今は?」
「……今もぞっこんでございます」
「だったら、あなたは消滅したりできないわね」
「なぜですか?」
「あたしがあなたを否定しないからよ」
「え……」
「たとえ半年後になっても、あたしはあなたを絶対に否定したりはしない。だって、こんなダメな女を好きになってくれた悪魔なんて、あなただけなんだもの」
「ですが、よろしいのですか? わたくしは今後オケラ同然になりますから、由美様へのお給料は支払えなくなってしまうのですよ」
「さっきの、寿命を売る人への還元の話か。そうねぇ」
あたしは少し考えた後、こう答えた。
「じゃあ全部とは言わないから、今後は上乗せしてあげなさいよ。そうすれば、あなたの手元にもお金は残るじゃない?」
「上乗せですか。では、十年でいかほどの額に?」
「百二十万円なら相手も喜ぶでしょ」
という、人間の女のひどい変節ぶりを見たフィーナは呆気にとられた後、やれやれと言わんばかりの笑みを浮かべた。
「わたくしが言うのも何ですが、由美様も、相当悪うございますね」
「今だから言うけど、あたし、これでも若いころは〝小悪魔〟の二つ名で通ってたのよね」
「そういう事でしたか。ふふっ、道理でわたくしが惹かれるわけです」
「今じゃアラサーの残念な女だけどね。さ、そうと決まったら、紅茶にとびっきりの甘いスコーンを加えて、あたしたちの大儲けをお祝いするとしましょ」
「ええ、喜んで!」
――人間と悪魔が分かり合う。
そのフレーズだけを聞くと、まるで怪しい話のように思われるかも知れないけど、双方にそれなりの事情があるから、悪魔が訪れて来るのよね。
そんな悪魔たちの事を、手のひらを返すかのように否定せず、堂々と証明し続けてあげられる人間が、一人くらいいたっていいじゃない?
だからあたしは、半年後になっても、それから先もずっとずっと、彼のものでいようと思う。
もう取引も契約も、お金ですらも必要ない。
あたしみたいな女の事をここまで想ってくれるフィーナと恋仲でいられれば、それだけで充分心は満たされるし、きっと幸せに暮らしていけるはずよ。
「あ。そういやエイジングケアの美容液が減ってたんだわ。後で二十本くらい補充よろしくね」
「はい……」
― 完 ―
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