ネモフィラ

3/15
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
「ねえ、浩人、痩せた?」  突然美沙が聞いてきた。浩人というのはもちろん僕の名である。 「そうかな、忙しかったし、緊張してたから、ずっと」 「仕事、大変みたいだね。いくらでも私に愚痴っていいよ」  その言葉はありがたいが、本当にきついことは言葉にできないタチなんだ。 「いや、それほどでも」  僕は言葉を濁した。  美沙は駅弁のエビフライを一番最初にぱくついていた。好きなものから食べるほうらしい。僕は逆だ。好きなものは後に残す。僕もエビフライが好きなので、それは最後に残していた。でもふっと、気がついて、言ってみた。 「僕のエビフライも食べる?」  美沙は目を丸くした。そして笑った。 「やだ、どうしたの? そんな、痩せちゃった浩人から奪う気なんてないよ」  僕はやや気をそがれながら、エビフライを口に運んだ。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!