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――やっぱり合コンなんて来るんじゃなかった。
都心の繁華街にある居酒屋の個室。私、里見絵梨は心底後悔していた。
手持無沙汰をごまかすために梅酒のソーダ割りを口元に運び、それから正面に座るスーツに眼鏡の男を見やる。
つい先刻、ぶっきらぼうな口調で阿部優人と名乗った彼は仏頂面のままスマホの操作に没頭し、私を気にするそぶりはない。
「……お仕事のメールですか?」
「…………」
返事はない。私になんて興味ないとでも言いたげな態度だ。
私だって別に好きであなたに話しかけてるワケじゃない。少しでも周りのテンションと合わせなきゃって思ってるだけなのに。
周囲を見渡してみると、同僚の四人はフルにこの場を楽しんでいるみたいだった。職場で出すような落ちついた声音とは違い、ワントーン高めの笑いが途切れることなく場を盛り上げている。無意味なボディタッチを交えているところ、どうやら、それぞれお目当ての相手を見つけたようだ。
……弱ったなぁ。はあっと深いため息を吐きだす。
隅っこに追いやられた私と阿部くんだけが、この場から切り取られて別空間に居る気分。
隣で必殺技の上目遣いを連発している同僚の朋美を一瞥してから、私は昼間の出来事に思いを馳せた。
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