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蛇口の大きさは同じくらいなのだが、妙に柔らかいというか、
違うものに触れているような感覚を覚えたのだ。
目が慣れないため見えはしないのだが、
赤子の固く結ばれた拳を握っているような、そんな感触だった。
徐々に激しく流れ続けている水を止めようと、
その拳のような蛇口をひねると、耳を点くような泣き声が聞こえた。
間違いなく赤子がすぐ近くで泣き叫んでいる声だった。
いつの間にか階段やトイレの電気も消え、
辺りは月明りがわずかに差し込むほどの暗闇となっていた。
この小さな空間にありえないほどの音量が響き渡っている。
どこからするのかわからない赤子の泣き声、
風呂でも入れるんじゃないかというほどの水の音、
そのうち盛りのついた猫の何とも言えない鳴き声が入り混じり、
深淵のオーケストラが生まれていた。
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