太陽

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太陽

 太陽が嫌いだ。ずっと真夜中でいいのに。そうしたら学校へ行く必要がなくなるし、何も見なくて済む。  太陽に快眠を邪魔された。心地よかった冷たい風が、いつの間にか生暖かい風になっていたのだ。それにしても暑い。夜しか起きていないから、昼間の温かさを忘れていた。  陽光が体に刺さって痛い。手で光を遮り、起き上がった。大きな欠伸をして、上着を一枚脱いだ。そして、近くの木陰に避難した。  誰もいない平日の公園のベンチで気持ちよく夜寝をしていたのに、太陽に起こされて気分が悪い。せめて曇り空であればよかったのに。そんなことを思いながらTwitterを眺める。  今日もまた、一度の食事を摂って夜寝し、起きたらダラダラして眠る。そんな崩壊寸前人生に拍車をかける一日を送るのだろう。この生活が途切れる時は僕が死ぬ時だと思う。高校を中退して、どこかへ就職したとしても、すぐに辞めてしまうに違いない。  不登校になって半年近く経つが、親は僕が学校へ復帰することを諦めていない。当然だ、両親は僕の気持ちなんてこれっぽっちも知らないし、知ろうともしないのだから。まるで北風のように無理やり登校させようとする。  いじめとか、そういうのではない。劣等感だ。劣等感が僕を苛むのだ。  テストの点数はもちろんのこと、運動能力、性格、容姿など。席次10位以内争奪戦なんて、とても参加できない。ドッヂボールは秒で外野行き、野球とサッカーは空振り三昧で終わる。気遣いもできなければ、人の落とした物を拾ってあげる良心すらも持ち合わせていない。見た目は良くも悪くもなく普通。  確かに、どこか一点だけを比べれば、勝てることもあるだろう。しかし、全体を比べると、勝てる気がしないのだ。  今の生活に罪悪感がないわけではない。ただ、高校へ通っていると周りの人に押し潰されそうで怖い。僕は逃げることでしか自分を守ることが出来ないのだ。  さて、そろそろ帰るとしよう。学校の知り合いと遭遇して面倒なことになる前に。 「あれ、斗真?」  公園を出た矢先、一年生の時に同じクラスだった真由美と鉢合わせてしまった。 「久しぶりだね。元気?」 「うん……」 「あのさ、ちょっと時間いいかな?」 「……いいよ」  彼女は運動も勉強もできる完璧な人だ。友達も多く、彼女と席が隣になった時なんかはよく話した。  さっきまで僕が寝ていたベンチに二人並んで座る。不登校であることに恥じらいを覚えた。 「その、私もね、最近学校に行っていないんだ」 「えっ?」 「学校に行くふりをしてサボっているの。周りの期待に応えられなくなったっていうのかな。別に、やりたいことも、目指したいものもないのに努力しても、空振っている感じがすごくてね」  彼女は太陽のように明るい人だから、こんなことを思っていたということに驚いた。 「でも、それって裏を返せば、目標ができたらやり遂げられるってことだよ。いろんなことに触れて、目標を作っていけば、きっと上手くいく」 「やっぱり、斗真はいいこと言うね。気が楽になったよ。そういえば、斗真はどうして学校に来ないの?」 「なんというか……才能が何もないから、かな」 「じゃあ、才能に負けない努力をしたらいいんじゃない?」 「そりゃあそうだけど、才能持ちでも努力はする。基礎が違うんだから、勝てるはずがない」 「じゃあ努力を基礎としてさらに努力を積み重ねたらいいんじゃないの? 私だって、中学の時は学年で下の方だった。けど、努力して、高校では毎回上位に入れている」  その通りだ。僕はめんどくさいことから逃げていただけ。 「私も、ちゃんと学校行くからさ、斗真も学校復帰して。私たちまた同じクラスだし、何か困ったことがあれば助けるよ」 「……わかった」 「じゃあ、私は学校に行くね。また明日」 「また」  彼女は立ち上がり、学校へ向かった。 「変な嘘ついてごめんね!」  彼女は公園の出口前で振り返り、そう叫んだ。  おそらく、彼女は僕の心を開かせるために嘘をつき、僕の不登校である理由を聞き出した。そして、僕がまた学校へ登校するよう誘導したのだ。  空を見上げ、息を吸った。最後の高校生活が僕を待っている。
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