第一章『はじまりは突然に』

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――人に指をさしてはいけません。  ジャックは生まれてから、一度もこの文言を破った事はない。  いや、一度もというのは正確ではない。ジャックが2歳の頃、遠くにみえた猫を指さした事があった。一緒にいた父親は無言で彼の指をへし折り、二度と誤ちを犯すなと言った。  "死出の指さし"と言う名の呪いらしい。ジャックに指をさされた者は命に嫌われる。直接的な死とは違うとかなんだとか。 「どんな理由であれ僕は死ぬまでこの力を使う事はない。君がどうして僕の力を知って、どうやってここまで来たのかなんて事はどうでもいい。もう帰ってくれないか」  ジャックの死んだような目をみて、ドミニクは申し訳無い気持ちになった。ドミニクが彼を頼りたい理由があるのと同じで、また彼にもどんな理由であれ力を使えない理由があるのだ。  ドミニクは帰ろうとジャックに背を向けた。  ジャックは異変に気付く。  ドミニクのフードに猫が入っている。しかも、めちゃくちゃジャックを睨んでいる。 「貴様、人でなしじゃのぅ」  そして、喋った。   「わ!着いてきたのかい?!」  ドミニクはごめんねとソソクサと帰ろうとするが、ジャックは未だ睨んでくる猫に多少イラつきはじめる。 「何か文句でもあるのか、猫」 「チシャと呼べ人でなし」 「僕はジャックだ」  睨み合う1匹と1人。ドミニクがアタフタしているとチシャは喋り出した。
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