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あの時と同じシチュエーションだ。安芸和が来た時、窓は閉まっていたが、なんとなく開けておいた。図らずとも、とは言い難いが一週間前とほぼ同じ状況だ。理由は特にない。ホントになんとなくだ。気分的な話かもしれない、
教室の扉が静かに開いた。心臓が早鐘を打ち出す。入って来たのは、花巻だった。安芸和の持つ花を見てギョッとしている。手には安芸和が出した手紙とイングリッシュラベンダーがあった。
(良かったあぁぁぁぁっ!)
花巻が来てくれたことを内心とてつもなく喜んだ。来なかったら、この花たちを静かに育てて生きようと思っていたほどだった。
「…」
花巻は何も喋らない。俯いていて、安芸和の方と言うよりは、その背にある花をチラリと見たが、すぐにまた下を向いた。
(最初の関門は突破。でも…)
やはり、いざ目の前にすると頭が真っ白になりそうだった。自分から切り出さなければならないのに、ここに来てまた言葉がつまる。
(だから、これを持ってきたんだっ)
安芸和は、おもむろに籠に入れてある一輪の花を取り出す。
スモモ(花言葉 誤解)
「…!」
「あの時の花は間違って出したやつなんだ。ごめん…」
安芸和は続けて花を出す。
ヒヤシンス 紫 (花言葉 許してください)
「…」
花巻は安芸和の傍らにある花の辞典を見る。たくさんの付箋が挟まっていた。
「これが、あの時ホントに渡したかった花です」
安芸和は撫子の花を差し出した。今度は間違えてない。何度も何度も確認した。
「…」
花巻は撫子をジッと見つめる。安芸和の心臓は全力疾走直後のように早く打っていた。それほど長い時間は経っていないはずだが、安芸和にはとんでもなく長い沈黙に思えた。
「……」
花巻は俯く。見ると、小刻みに震えていた。安芸和は途端に不安になった。また、彼女を傷つけたのか?花については勉強した。花言葉も似ている花でさえも。しかし、それでもダメだったのか?悪い予感ばかりが安芸和の頭を駆け巡った。
だが、
「クスクス…」
花巻は笑っていた。穏やかな表情で、口許をほころばせていた。優しい表情に安芸和はドキっとした。彼女はゆっくりと安芸和に歩みより、花を持つ安芸和の手を優しく両手で包み込んだ。
「わっ」
思わず声が出てしまった。変に思われただろうか、もちろん嫌な訳ない。彼女の手は暖かくて、柔らかかった。
「花の…蕾みたい…」
「えっ…」
花の名前ではなく。二人の重なる手を、花巻の手がまるで、花びらのように包まれている二人の手を見て、彼女はそう呟いた。
安芸和は体温がグングン上がるのを感じた。フラフラしそうだった。
そんな安芸和の表情を優しく見つめながら、
「紫の…ライラック…」
花巻 言葉はそう言った。
ピンクの撫子と二人の蕾が夕陽に照らされていた。
ライラック 紫 (花言葉 恋の芽生え)
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