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翌日。
安芸和は通常通り登校してきた。いつもと違うのは小脇に分厚いハードカバーの本を抱えていることだ。
「なにそれ?」
昇降口で合流した田中は、安芸和の本を指して訊ねた。安芸和は、ずいっと本を突き出した。
「花の辞典。花言葉も載っているんだぜ」
微かにする新品の紙の匂いが二人の鼻をついた。
「真面目だな。お前」
田中が感心していると、安芸和が一点を見つめて固まっていた。視線の先を見ると、花巻が来たところだった。彼女もこちら見て、なんとも言えない表情をしていた。気まずい雰囲気が漂う。
「あ...の...」
誤解を解かなければ、謝らなければ、ちゃんと気持ちを伝えなければ。グルグルと安芸和の頭の中を駆け巡る思いは、口にすることができない。
「おはようっ」
絞り出した言葉が挨拶だった。彼女は面食らった様子だった。理解が追い付いていないのか、まごまごしていた。
「...!」
花巻は安芸和が抱える本をチラリと見たが、下を向いて安芸和の横を通り過ぎてしまう。花巻は安芸和の顔を怪訝そうに見ながら、
「...アキノキリンソウ」
と、言って去って行った。その後ろ姿を安芸和は見送ることしか出来なかった。
「意味は?」
「えぇ...と」
安芸和は花巻が言った花の名前を辞典で調べる。
アキノキリンソウ (花言葉 要注意)
「...警戒されてるな」
「あぁ...」
項垂れ、トボトボと歩く歩幅に田中が合わせながら、二人は教室へ向かった。
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