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「俺は決めたぞ」
一週間ほど経ったある朝。田中にとってはいつもより少し早い朝の学校の昇降口。安芸和に呼び出されていた田中は、目の前に立つ友人の姿をなんとも言えない表情で眺める。
制服姿に竹製の籠を手提げており、そこには色とりどりの花が詰め込まれていた。
「.........何を?」
半ば呆れ気味に答えるが、安芸和本人は至って真剣な面持ちだった。
「告白だ」
通りゆく生徒達はそんな安芸和を見て、クスクスと笑っていた。田中はいたたまれなくなり、安芸和を引っ張る。昇降口を抜けて、生徒があまり通らない廊下へと連れ込んだ。遠くで生徒達の喧騒が聞こえてくる。
「馬鹿なのか?」
「大まじめだっ」
安芸和の動きにつられ、花々がファサリと揺れる。それに合わせて花の少しキツイ香りが漂う。
「今日、リベンジだ。謝って、ちゃんと想いを告げる。...花で」
花巻 言葉は花が好きだ。これは皆が知っている。だから安芸和は花での告白を試みた。だが、失敗に終わった。花言葉を知らなかったとはいえ、彼女に嫌いだと告げてしまった。実際、そういったケースはあるというのを耳にしたことはある。それに関して安芸和は自身は「知らないんだししょうがないんじゃ?」と思っていた。普通の人ならそれで済む話だ。
しかし、花巻 言葉に関しては、花が好きで、理由は分からないが、花の名前で話す彼女には人一倍、気を付けなければならなったのだ。
彼女の悲しそうな顔が脳裏に浮かぶ。安芸和は自らのしたことに後悔し、奥歯をぐっと嚙み締めた。
「で?呼び出すのか?ゴボウって言われてるのに?」
「これを彼女の下駄箱に忍ばせる」
安芸和は懐から一通の手紙を出し、田中に見せた。そこには便箋で、
“私の本当の気持ちを伝えさせてください。放課後、あの時の場所で待っています”
と綴られていた。下には安芸和の名前がある。
「お前こういう手紙よく他人に見せれるな」
「今更、恥なんてない」
手提げている色んな花が安芸和の説得力を物語る。
「ていうか、こんなので来るか?」
田中の言い分も最もである。彼女は安芸和の事を少なからず、警戒している。来ない可能性は十分にある。
「まぁ、正直賭けだ」
そう言いながら、安芸和は籠から鮮やかな紫色をした花を取り出した。
「ラベンダー...だっけ?」
「イングリッシュラベンダーだ」
安芸和は得意げに言った。本人なりにかなり勉強したのだろう。
「これを手紙に添える」
「これで効果あんの?」
「花巻だからこそ使える手だ」
イングリッシュラベンダー(花言葉 あなたを待っています)
決戦は放課後。
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