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「もしかして起きてたん、ですか? いつから?」
「小町似がそこに座り出したくらい?」
「ど、どうして止めてくれなかったんですか! 意地が悪いですっ!」
「うん、妙に似てて可笑しかったから」
「そんなあっ」
なんて赤っ恥だろう、ハメようとしてしっぺ返しを頂戴した気分だ。頬をパンパンに膨らませていると、暗がりにようやく目が慣れてた事も相まって、浮かび上がる……月光より輝かしい甘い笑み。
「嘘。隠し切れずに地が出てるとこなんか、とても可愛かったから」
貴方は上半身を起こし、少し首を傾げ、なお私を目で愛しむのだ。
「瀬奈、顔よく見せて、こっちに来て」
美馬さんは確信犯だ。突き放しても傷つけても、こうして少し手を伸ばせばまた私が流されると信じて疑っていない。
美馬さんは相変わらずだ。無理矢理な事はしない、自ずと向かって来るように仕向けるのがお得意。
「ここずっと根詰めてて疲れてるんだよね。癒して、瀬奈」
そして私は、そんな狡い強引さが嫌いではない。
根詰めていたのは黒崎の土地を守ってくれての事。感謝の気持ちを表してもバチは当たらないはずと、導かれるまま膝上にお邪魔するのであった。
「もう泣かないの、全然足りないでしょ」
「だからっ泣いてません、よ!」
暗がりに煌めく瞳、燻る熱情を撫で上げる唇。前髪をサラリ掻き上げては顔の輪郭をまるごと覆ってしまう大きな右手。夢のようだった、また貴方と向き合えるなんて。
「頑固な子。お前の良い所は一生懸命とど直球なのに。いつから上手に我慢出来るようになったの」
この問い掛けに緩む涙腺が嫌でも教えてくれる。私が我慢していたのは涙だけでなく「美馬さん」なんじゃないのって。
「きちんと泣いて、素直になって早く」
「欲しい」と聞こえて来そうな瞳で唇を見つめられると、それを急かしてしまいそうになる。微かに上唇同士が触れると、じれったさに身が焦がれる。早く早く、もっともっと深い所まで覗かれたいって。
「美馬、さあ──んっ」
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