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包むもの全てがキスに変わったすぐ後のこと、甘えた声と涙が、唇を濡らしていた。膝上に腰掛けているので、私の唇の方が少し高い位置。零れる涙を受け止めてくれているようだった。
まったりと。もったりと。時間を掛け蜜を撫で、思考も恋心さえ涙海に溺れていく。
「頭では理解してるんです。そもそも貴方のような完璧なエリート、愛人でも相手にして貰えるだけで有り難いんだって」
美馬さんのせいで久しぶりに人に甘えたくなってしまった。溜まっていた弱さも、ご無沙汰していた涙も、溢れて仕方ない。
「でも美馬さんもまんざらでなさそうだったし、これはイケるかなってバカみたいに期待しちゃったりして。なのに貴方はツれたりツれなかったりでいつも不安で。ついにはこんな指輪までこさえて来──、美馬、さん?」
「うん、続けて」
もはや何を主張したいのか分からない。なのに貴方は、やぶれかぶれの心ごと大事そうに抱き締めてくれたんだ。「精一杯、嘆けばいいじゃない」と。
「泣いていいよ」と心底心配してくれた彼には見せられない姿が、貴方には容易く崩されてしまう。
「あの私ずっと、琴美さんやたぁこちゃんに申し訳ない気持ちと、でも美馬さんが欲しい思いとが喧嘩してて苦しかったんです。けど突き放されてもこれでよかったとは思えなくって、そんな時おかあちゃんが倒れてっ」
「うん、辛い時期が重なっちゃったよね」
「美馬さんが傍に居てくれたらって、何度も思いました」
「うん、ごめん。思ったより開発の話が進んでたもんだから。社長の財産はお前の財産でしょ」
貴方の見守り方は憎いくらい控えめで、極めて分かりづらい。雄志さんが万事を照らす太陽ならば、美馬さんはその光を反射させて光る月でした。
「おかあちゃんの事だって、まだ全然割り切れてなくってっ」
「うん、聞かせて」
「面会行く度に覚悟を強いられて、でも一分一秒頑張ってくれてるおかあちゃん見てたら泣いてられないって、捌け口が何処にもなくって」
「うん、そんなお前が居たから社長は安心して頑張れたんだろうね」
「ぅぁああ〜〜〜!!」
不思議。ぶつければぶつける程心が軽くなっていくような気さえする。
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