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まさに本能のままに流されんとしていた最中。運が良いのか悪いのかそれを思い出し、みるみるうちにカラダから熱が離れていく。
雄志さんどうの以前に、貴方は人のもの。どうにかなるかもと希望を持てたあの頃とは雲泥の差、もう「好きだから」で赦される情事ではないのだと。ゆえに両腕で胸上にバッテンを描き抵抗の意を表した。
「片割れの持ち主? あぁこれね」
おもむろに二つの視線を左薬指で遮った貴方は、それはそれは穏やかな眼差しで指輪を眺め始めるのだ。暗闇でもなお輝き絶えない光を追い掛けるように、優しく愛でる如く、緩い笑みすら浮かべて。
「罪悪感ね、ある意味あるかな」
何故そんなに冷静でいられるの、どうして笑えてしまえるの、よく二度も私の目の前にそれを出せたものだと、思わず人格を疑いたくなる。
「ある意味って……。しかもこの間、葬儀の後。わざと私に見せましたよねそれ」
「どうかな」
終いには「Yes」と言いたげに微笑みかけるものだから、いよいよ我慢がはち切れようとしていた。
甘エサを目前に吊るして、全速力で追い掛けさせておいて、ゴールテープを切った途端「はい残念、結婚しちゃってました」と言われたようなものだ。
突き放した理由がどんな涙ぐましいものであれ、おかあちゃんとの約束はきちんと果たしても娘の私は騙していた、結果そうなる。
なのにどうして……辛いだけだから考えないようにしてたのに……。
レースが終わっても貴方は当然のように現れて、気まぐれに触れて。そして私は抗えない、背く事すら赦されない。この恋心は私のものなのに、まるで手錠にかけれられているみたいだ。
「私の気持ち知ってる癖にっどうしてそんな意地悪したんですか? それでなくても絶賛傷心中だったんです、よ!」
「意地悪、かもね。これ見てどう思った?」
「ど、どうってそりゃあ、気になって気になって仕方なくなりました、よ!」
「うん、それで正解」
「はいっ? 正解とかあるんですか?」
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