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なけなしの反抗を奮おうが瞬殺。その思わぬ返しにしどろもどろになる私に、こうあけすけに言い放ったのだった。
「これ見てから、あれ以来考えないようにしてた誰かの事ばかり考えてたんでしょ」
美馬さん、貴方が初めて持ち得ただろうその熱情は、毒々しくそれでいて特別甘美で、棘だらけでしたね。ただ、それがどんなに熱を帯びていようが、相手に解るように伝わらなければ無かったも同然となるのです。
「誰か、って……」
「うん、俺だよね」
なんて傲然たる横柄さ。確かに、おかあちゃんが倒れ、雄志さんと会う日が増え結婚の話が出たりして、ここ一ヶ月忘れられていたものを。
それを見せられたあの夜からと言うもの、瘡蓋の剥がれた傷口からドクドク血が流れ美馬さんの名を何度も呼んだ、「どうして」と。そしてフとした瞬間貴方を欲した。誰かのものになった途端、狂おしい欲求に駆られて。
「パーティー以来勘違いさせたままにしても正直自信あったんだよね、迎えに行けば喜んで飛び付いてくるんだろうって。なのにお前変に意地張ってるし」
──まさかとは思うけど、いいえ絶対、あのタイミングでわざと指輪をチラつかせたのは私の気を惹き戻すため?
「言ったでしょ……」
「俺以外の選択肢はあげない」その為にはまず視覚で捉える、それがまさにこれだったのだと、何とも言えない濁った感情が胸を侵食していく。クラクラするその策士ぶりに、華麗なる悪に。
「そう言う事は、指輪外してから仰ったらいかがですかっ」
私の心情を完全に見透かした手口、ブレない勝敗。わなわなと悔しさをぶつけるしかない私に対し、貴方の瞳はなお大切そうに光を慈しんでいた、やがて指輪にキスをして。
「ごめんね。これは外せないんだよね、大切な約束守りたいから」
貴方にしたら責任感からの結婚でしかないはずなのに、琴美さんとそんな誓いを交わしたのだろうか。
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