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というより、おかあちゃんや琴美さんとの約束はキッチリ守るのに、「合格発表の日、12月5日に迎えに来てくれる」──という私との約束はどこへすっ飛んで行っちゃったんだろう。もはやその頃私は、おかあちゃんの看病に続き葬儀でそれ所ではなかったのだけれども。
つまりは、今後も愛人として傍に置いておきたいってこと? もしかして最初からそのつもりだったの? 永遠に私は、貴方以外の誰かと恋愛することすら許されないのですか? 美馬さんは他の人のものになったのに?
「瀬奈、よく聞いて。俺の方が落ち着いたら……ッ」
確かに、確かにこの時、貴方は何かを伝えようとしていたけれど。羽根をもがれるだけの鳥籠に飼われた自分が不憫で堪らず、私は人生で初めて人に手を上げた。
上げた手を片付けられず怯える私、叩かれた頬をこちらに向けたまま傷に手を添える事もしない彼。
「最低です、勝手過ぎます美馬さん。パーティーでの一件も、指輪の事も、私がどんな気持ちになるかなんてどうでもいいみたいにっ」
当然スッキリするものだと思っていた、もっとクリアな音が響くと疑っていなかったんだ。だけど実際、手のヒリヒリが余計胸を痛くさせて、応接室に広がった音は酷く鈍くて。今の弾みで、晒さないようにしていた傷口がパカッと開いたよう。
「遊びたい程度でチヤホヤするならもうそっとしといて欲しいです! また振り回されるだけなんて私もう堪えられそうにありませんっ」
「あのね、お前みたいな単純まっしぐらわんこ。遊びたい程度で手を出すと思う」
「なら、愛してるって胸張って言えます? 言えませんよね、美馬さん愛欠損オトコですもん。多分好き、が聞けただけで奇跡ってなもんです。所詮私は愛玩わんこなんです、それも駄犬!」
「何、言葉にしないと愛してる事にならないの」
──狡いです。そんな、答えに困る返しをして。貴方はいつもそう。
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