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「うん、これが原因なんだろうね。それは琴美とたぁこが……」
「違、そうでなくてっ」
少しも違わないんだけど、嘘でも首を横にフルフルする。琴美さんは今幸せ絶頂に違いない、なのに「その結婚どうにかして」なんて迫れるはずがないのだから。
もしかしたら、この指輪には何か大きな理由があるのではと考えもしたけれど。それを嵌めている以上、唯一の希望だった「婚約披露パーティーは結婚解消の条件だから」と言うあの時の言葉もあやしいし。それを外したがらないし、大切そうにしているし。何より、浮気オトコ「美馬刹那」になって欲しくなかったのだ。
嫉妬、狂おしい愛、捨てられない良心。矛盾だらけ──
「疲れ……ちゃったんです、必死になって追い掛けるの」
「俺と居ても苦しいだけになっちゃったのお前」
自分でも解らなかった、その答えが。ただこの時、股の間に打たれた膝の杭から解放された事が無性に寂しかったくらいで。
「あの頃とは色々と、変わったんです」
「そう。思えば、笑顔は見た事あったけど、瀬奈の笑い声は思い出せないんだよね。俺はお前を泣かせるしか出来ないのかもね」
「──っ、美馬、さあ?」
──そ、んなこと、ない。
美馬さんに出逢って、恋に堕ちて。前途多難だったけど、だからこそ少しの進歩でも最高に幸せで。沢山胸を痛めたし涙を流したけど、それは愛するがゆえの結晶みたいなもので。
胸張って「恋した」と言えるオトコは、きっと絶対生涯、貴方だけだと言い切れます。なのにいつから私は好きなものを「好き」と言えなくなってしまったのでしょう。
「ぅ……ひっく、わぁぁあああ──んっ!」
貴方と言うオトコが優しいのか、卑劣なのか、もはやそんな些細な事はどうでもよくなっていた。ひたすら泣き続けていたと思う。これでもかと声を上げて、目の前のシャツを握り締めて。
そして美馬さんはただ私を抱き締め、文句一つ言わず静かに見守ってくれていた、涙が枯れるまで。
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