5514人が本棚に入れています
本棚に追加
ドラマの中だけだと思ってた、本当にこんな無駄遣いする人が世の中に居るんだ。妹尾さんとは違って心が澄んでてとびっきり優しい男性なんだきっと。
バーテンダーの指先「あちら」を窺ってみると、カウンターで一人渋く飲んでいたらしいスーツ姿の男性がぼんやり映る。1滴の涙粒が落ちて間もなくその全貌が明かされていく。
バーのインテリアのような大人の雰囲気、ただ椅子に座ってるだけで醸し出す高貴な風貌、そんな紳士がどうやらテーブルに付いてしまうまで額を屈し嘲笑しているご様子。
──あれって、隣部署の美馬部長?
「マグロね……、大ウケ」
否応なく貴方に男を意識させられる夜、悪魔が微笑んだ。
「悩みに煮詰まってた所にケッサクな邪魔が入った。隣来たら? 妹尾は帰って来ないんでしょ、ご馳走した酒くらい飲んで行けよ」
美馬部長が惑わすスコッチ。甘く危険なアルコールにトロけてしまったみたい、グラス内の氷も誘惑もカラリと音を立てる。
「おひとり様ですか? 美馬部長の事ですからお待ち合わせとか」
「この店は俺の隠れ家、一人でしか来ないよ」
彼は同じ会社の不動産経営マネジメント部部長、美馬刹那31歳。この若さにしてオトナ男子の色気を超越、その色香に毒された女は数知れず。来る女拒まず去る女追わず、これをモットーにしたような男なんだそうだ。
同フロアの部署なので挨拶した事くらいはあるものの、その情報の殆どは「アネゴ」と親しませてもらっている先輩からのもの。美馬部長とは幼馴染みらしい。
最初のコメントを投稿しよう!