3.恋人の連絡

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3.恋人の連絡

さてさて、恋人の連絡をすっかり忘れてたおれ。 とはいえさっきの撮影終わりから2、3時間ほどしか経っていない。 加えて撮影のあと事務所に寄ることも伝えていた。 まだ連絡も来ていないだろう。 まあ来てたとしても一件くらいだろう。 ……と、思ったら大まちがいだ。 その存在を思い出してカバンから助手席に出してから鳴り続ける通知音。 運転に集中できないので信号待ち中にミュートにしてカバンの中に逆戻りだ。 もう慣れかけてきてしまっているとはいえ、怖い。 夜道を走って やっとの思いで事務所に着く。 事務所内にいる残り少ないメンバーにお疲れ様ですと声を掛けながら 自分のデスクに向かう。 ほんとはまだ業務中だしプライベートなスマホをみるわけにはいかない。 しかしこのまま理央の連絡を放置するのは恐ろしすぎる。 「………」 天秤にかけた結果ひとつ返信を返すことにした。 画面を開いてロックを解除する。 …なに? 通知ひとり、メッセージ数127?? おそるおそる一番上の『理央』の名前をタップする。 『ここから未読メッセージです』 の下に広がる短いメッセージの羅列。 スタンプなど一個もない。 どうやら彼も明日オフらしく、金曜日だしウチにおいで、から始まるメッセージ。 甘すぎるような愛の言葉を送り続けてくれているが 徐々に既読がつかないことに誰と何をしているのか、とお怒りのメッセージになっていく。 その後『どうしたの、大丈夫』と心配してくれるのが理央らしいけれど。 そのあとは数件不在着信も入っているようだ。 なんか恐怖通り越して罪悪感が… とりあえず一番下までスクロールして 『ごめん、気付かなかった。仕事終わったら連絡する。』 とだけ送信して少し考えてから 『あと一時間で終わらす。』 と送信して画面を暗くした。 パソコンに向き直り今日の仕事をまとめて入力する。 あとは各タレントの予定をまとめて明日それぞれに送れるようにして… ** 「雪惟?そろそろ終わりにしたら」 「あ…洋子さん。もうそんな時間?」 洋子さんはおれの叔母。つまり社長。 彼女に声を掛けられたことで焦って時計を仰ぐ。 「うん。あんたが帰ってきてからは1時間くらいだけどね。 時間が時間だからもう閉めるよ。」 よかった。約束の一時間はまだ過ぎてはいない。 「ホントだ…ごめん。すぐ準備する。」 「うんうん。仕事好きなのはいいけどうちはホワイト企業だからね」
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