絶滅日和

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 滅びゆく恐竜は、何を思って生きていたんだろう。  巨大な隕石の衝突、塵に覆われた暗い空、枯れ果てた植物、転がる頭骨──私が持っていた図鑑には、そんな挿絵ばかりが載っていた。  けれども、と思う。たとえ気候が変わってしまっても、それに伴って食物が少なくなっても、それはそんなに悲劇的な出来事ではなかったんじゃないだろうか。むしろ喰う者も喰われる者も、最期の時を心穏やかに迎えていたんじゃなかろうか。  というようなことをマスターに話したら、「知るもんかね」と素っ気なく言われてしまった。  この頃の彼は、さっぱり商売をする気をなくしてしまっている。今だって私が話しかけているのに、店の片隅のテレビから目を離そうともしない。  無理もないな、と思う。なにしろつい先日、とうとうこのお店からも“失踪者”が出てしまったのだ。あんなにここを気に入っていたはずの常連客も気味悪がって足が遠のいてしまい、未だに通い詰めているのは私くらいのものだ。  テレビは知事の緊急記者会見を流し続けている。 「──住民の皆様におかれましては、不要不急の外出はくれぐれも控え、何卒ご自宅での待機をお願いいたします。繰り返します。どうか、不要不急の外出は控え──」  フン、とマスターが鼻を鳴らす。「馬鹿な奴だよ。今さら外出を控えたからって、なんだっていうんだ。現に失踪してるのは、言いつけを守って、家に閉じこもってた人たちばかりじゃないか」
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